この報告書の中から、特に皆さんにお読み頂きたいところを抽出しました。
ほとんど、報告書をコピペしているだけですので、「これぐらいの報告書なら自分で読むよ」という方は、今週はスキップしてください。
なお、下記の抽出部分は報告書のほんの一部ですので、正しく理解するためには、全文をお読みくださいね。
ディオバン問題・ディオバン事件に対する報告書
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●高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた対応及び再発防止策について(報告書)
平成26 年4月11 日高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会
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http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000043426.pdf
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臨床研究のデータ改ざん防止策は?
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B データ改ざん防止体制の構築
臨床研究の質の確保の観点から、臨床研究の実施機関の長又は研究責任者は以下の諸事項についての対応を十分検討すべきである。
ア. 担当者が内部・外部の者であるかにかかわらず、特定の者に統計解析等の重要業務が偏在することのないよう配慮すること。また、研究チーム内で十分な議論やチェックができるような透明性確保に配慮すること。
イ. データ管理センターなど、研究チームとは別途の第三者的組織でデータマネージメントを専属で行う組織を設けるなど、データ管理を適切に行うこと 。
ウ. 倫理審査委員会等における審査に際しては、臨床研究開始前に、個々の臨床研究の実施体制についても十分確認させ、利益相反上の問題だけでなく、臨床研究の質の確保の観点からも、実施体制の妥当性について検討すること。
臨床研究の実施機関の長においては、臨床研究の開始前にデータ管理が適切に行えるよう、医師や臨床研究コーディネーター、生物統計の専門家などの必要な人材確保・組織体制整備に努める必要がある。
国は、臨床研究の実施機関が必要な人材を確保できるよう、臨床研究にかかる人材の育成に一層努めるべきである。
特に、臨床研究中核病院など、臨床研究の実施基盤整備・拠点化を適切に進め、当該病院を中心とした関連医療機関との連携を通じ、臨床研究の質の向上や人材育成を推進すべきである。
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大事なことはデータ改ざん防止策としてのシステムとそこにいる人材の育成、人材の確保ですね。
臨床研究関連資料の保存は?
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C 臨床研究関連資料の保管義務
今回の事案を通じ、臨床研究関連資料の保管責任者及び保管すべき年数があらかじめ決められていないことが明らかになった。
また、最近になって関連資料が廃棄された事例が見られた。
国は、臨床研究関連資料の保管責任者を明確化するとともに、保管すべき資料の種類及び保管年数についても明確化し、臨床研究の実施機関の長にその遵守を求めるべきである。
また、研究者の異動や退職があることから、異動等に伴い臨床研究関連資料が移管・廃棄されることのないよう、臨床研究の実施機関の長は、このような場合の資料を保管管理する体制・ルールをあらかじめ決めておくべきである。
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治験をやっている身にとって「臨床研究関連資料の保管責任者及び保管すべき年数があらかじめ決められていない」というのは驚きです。
「記録がないというのはやってないということ」ですからね。
研究者や組織の自覚について。
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(4) その他(対応が必要な主な事項)
●臨床研究倫理指針の適合性に関する自己点検が適時適切に行われていないこと。
●今回の事案の存在又はその疑いが生じた場合の大学による調査について、その迅速性や調査内容に大きな差が見られること。
今回の事案について、関連5大学は、いずれも外部からの指摘に基づき調査が開始されている。
今般の臨床研究実施から事案の存在が明らかになるまでに長期間要しているのは、各大学の自己点検能力が脆弱であることが一因と考えられる。
後述のとおり、今般の事案を受け、厚生労働省及び文部科学省は、臨床研究を実施する主な機関を対象に自己点検を実施するよう要請しているが、そもそも自己点検については臨床研究倫理指針に規定されているものである。
本来、自己点検は定期的に実施するとともに、今般のような事案発生に際しては、同様の事案がないかについて、積極的に自己点検行うべきである。
今回の臨床研究事案が判明した際の各大学としての調査については、その迅速性や内容が大きく異なるとの印象を受けた。
指針違反に関する事案その他データのねつ造など臨床研究の信頼性を揺るがす事案の存在又は疑いが生じた場合、臨床研究の実施機関の長は、直ちに調査委員会を立ち上げ早急に調査を実施するとともに、必要な対応方策を講じる必要がある。
「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)(平成19年2月15日文部科学大臣決定・平成26年2月18日改正)」によると、迅速な全容解明のため、不正調査の期限を原則210日以内と定めているところ、これらの調査についても、遅くともこれを一つの目処に調査を実施すべきである。
また、臨床研究の実施機関の長は、調査委員会に外部有識者の参画を求めるだけでなく、調査の中心的役割を依頼するなど、第三者性を十分確保すべきである。
また、臨床研究の実施機関の外部に調査を委託することも併せて検討するべきである。
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●研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)
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http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/008/houkoku/07020815.htm
「報告書」の結論です。
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第四 むすびに
(1) 今回の事案にかかる臨床研究の企画立案について、大学側研究者に特定の医学的研究課題の解明を目的としたとは考えられない動機が認められること。
臨床研究について大学側に十分な実施体制が整っていないにもかかわらず、研究者が研究を開始した例が認められること。
本来の目的が曖昧な状況で研究を実施することにより、医学的研究以外の意図を有する者が関与する隙を与えた可能性があったこと。
このような状況で行われる臨床研究は、研究者としての倫理に反しているのみならず、本来行ってはならないものであり、特に被験者保護の観点からは看過できない問題であること。
また、大学側研究者の利益相反管理がずさんであったこと。
(2) 大学内の倫理審査委員会が事案発生の歯止めとして機能していないこと。
今回の事案発生については、大規模臨床研究にあたって不可欠な統計解析者などの人材を外部からの労務提供に依存するなど、大学及び大学側研究者における臨床研究の基本的実施体制が脆弱であったことが原因となっていると考えられること。
また、今回の臨床研究事案にかかるデータの信頼性は大学間で異なるものであり、事案が判明した際の大学における調査の迅速性や内容についても大学間で大きく異なること。
さらに、ノバルティス社元社員の各研究への関与の度合いも大学によって大きく異なること。
これらは大学の臨床研究に対するガバナンスの適切性を示すものと考えられたこと。
(3) 今回の臨床研究事案のノバルティス社の関与については、元社員一個人が関与していたというよりは、実態としてはノバルティス社として今回の事案に関与していたと判断すべきものであること。
ノバルティス社が今般の事案に対して提供した奨学寄附金は、スポンサーとしての役割を果たすものであり、奨学寄附金本来の趣旨と異なるものであること。
ノバルティス社からの長期間にわたる多額の資金提供及び労務提供は、営業を含めた同社の業務の一環として行われたものと考えられること。
同時期にスイス本社が関与した海外臨床研究については利益相反について適切に言及されており、スイス本社の透明性確保に関する方針は日本法人において適用されておらず、ノバルティス本社の日本法人に対するガバナンスが機能していないこと。
また、日本法人の内部におけるガバナンスにも問題があったこと。
以上の状況を踏まえ、本検討委員会は、臨床研究の質の担保及び被験者保護並びに研究者の利益相反管理、研究支援に係る製薬企業の透明性確保等の観点から、これらを担保するための法制度等の必要性について、国は平成26年秋を目処に検討を進めることを提案した。
またこれと並行して、現在検討中の臨床研究倫理指針の見直しにおいて必要な対応を図ること、さらに、権限を有する者による本件事案の実態解明をすすめて、厳しい対応を図ることなどを提案した。
中間とりまとめの公表後もなお、臨床研究等においてデータが適切に取り扱われていないのではないかと疑われる報告が複数報告されており、また、今回の事案等を受け、厚生労働省及び文部科学省が連名で行った自主点検の結果を見ても、臨床研究倫理指針に違反する事例は複数報告されている。
本事案は必ずしも過去の課題とは言えない。
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上記に「ガバナンス」という言葉が何度か出てきますね。
「ガバナンス」とは「統治」のこと。
ガバナンスは組織や社会に関与するメンバーが主体的に関与を行なう、意思決定、合意形成のシステム。
企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を総合的にとらえ、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みですね。
繰り返しますが、今回の事件は、日本の臨床研究の信頼回復どころか臨床研究の質を飛躍的に向上させる絶好のチャンスです。
問題は『規則』ではなく『臨床研究者自身』です。
下記に参考資料をあげておきます。
●「医系大学・研究機関・病院のCOI(利益相反)マネージメントガイドライン(一般社団法人全国医学部長病院長会議(平成25 年11 月15 日))」
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http://www.ajmc.jp/pdf/coi26-2-24.pdf
●「臨床研究にかかる利益相反(COI)マネージメントの意義と透明性確保について(日本学術会議臨床医学委員会臨床研究分科会(平成25 年12 月20 日))」
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http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t183-1.pdf
●「我が国の研究者主導臨床試験に係る問題点と今後の対応策(日本学術会議・科学研究における健全性の向上に関する検討委員会・臨床試験制度検討分科会(平成26 年3 月27 日))」
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http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t140327.pdf
●「医師の職業倫理指針〔改訂版〕(公益社団法人日本医師会(平成20 年6 月))」
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http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20080910_1.pdf