●●● 今週は「問題を解決リーダーとは」を見ていきます。
4.コミュニケーション力
「三つの情報ギャップ」を防ぐ法
問題解決型リーダーの第四の経営スキルは、「コミュニケーション力」である。
すなわち、言葉を通じて情報を相手に伝える過程を意味する。
これまでの筆者の調査では、日本企業の部課長等の中間管理者は平均的に一日の時間のうち50〜60%をコミュニケーションにあて、そのうち70%が内部、30%が外部との連絡になっている。
さらに会社内部とのコミュニケーションのうち60%が部下と、30%が上司と、10%が同僚その他との対話に使われている。
職場でのコミュニケーションがいかに重要な役割を果たしているのかがわかる。
コミュニケーションでは、言うまでもなく、伝えたい情報が相手に正確に伝わることが基本となる。
これは簡単なように見えるが、実は大変難しい。
それはなぜであろうか。
一般に情報の伝達には三つの情報ギャップがあると言われている。
第一は「コミュニケーション・ギャップ」(意思伝達ギャップ)、二つ目は「コンセプチュアル・ギャップ」(意味概念ギャップ)、そして三つ目は「コンテクスト・ギャップ」(因果関係ギャップ)である。
一つ目のコミュニケーション・ギャップは、情報が言葉によって伝達される過程で、その内容の誤差が拡大していくことを意味する。
これは簡単な実験で理解できる。
たとえばあるクラスに学生が20人いたとしよう。
一番目の学生にある情報(たとえば「三人が富士山に登った」)を口頭で伝え、それを二番目以降の学生に次々と口頭で伝えるように指示する。
そして最後の20番目の学生に前の学生から聞いた内容を発表させる。
すると、富士山ではなく「富士市へ遠足に行った」というように大きくずれてしまうのだ。
この情報ギャップは伝言していく人数が増えれば増えるほど大きくなる。
二つ目のコンセプチュアル・ギャップは、対話者双方が頭に描く情報内容の違いを意味する。
たとえば「雪だるま」を日本人に描いてもらうと、ほとんどの日本人が大小二つの円を描くはずである。
ところが、同じ「雪だるま」を米国人に描いてもらうと、大中小の三つの円による雪だるまを描く。
これがコンセプチュアル・ギャップの一例だ。
つまり、「雪だるま」という単語ひとつをとっても、そこから思い描く形が日本人と米国人とでは違うため、意思疎通がうまく出来ないことになる。
三つ目のコンテクスト・ギャップは、物事の背景にある因果関係の捉え方の違いを意味する。
たとえば、長い間外国に滞在していた駐在員が帰国して会社の会議に出席すると、同僚たちの話している内容がよく理解できないことがある。
いわゆる「駐在員ボケ」である。
コミュニケーションでは情報が言葉どおりに伝達されても、相手がその情報の背後にある因果関係を理解(共有)していないと、正確には伝わらない。
コミュニケーションには、このような三つの情報ギャップが必然的に伴う。
したがってリーダーはメンバーとの対話において、情報ギャップをなくするような方法を意図的に行わなければならない。
コミュニケーション・ギャップを防ぐには、口頭による説明の場合、伝えたい概念を書類にまとめ、それを読みながら説明する。
また質疑応答によって伝えたい内容が伝わったかどうかを確認することは不可欠である。
コンセプチュアル・ギャップを防ぐには、伝えたい情報の中の重要な項目について、その概念を形で表すことも効果的である。
最近はカタカナで英語を表現することが多いが、カタカナ表現のあとにカッコでその意味を説明する。
たとえば「コミット(約束)する」ように表現して、こちらの意図を正確に表すことが必要である。
コンテクストについては、伝えたい情報の「背景となっている因果関係」を十分に説明して、その目的(what)を、なぜ(why)行うかという関連情報を理解させる。
これは職場のコミュニケーションでは特に重要である。
リーダーから見て、こんな初歩的なことは十分理解されているだろうと判断される内容でも、伝えたい情報に関連することは要約して説明することだ。
以上のように、リーダーはコミュニケーションにおける情報ギャップを防ぐために、細心の注意を払う必要がある。
5.人間関係力
●「人望」とは何か
問題解決型リーダーの第五の経営スキルは、「人間関係力」である。
生身の人間の「こころ」を動かすには、メンバーのほうが進んでリーダーの説明を納得し、自主的に行動を起こすようでなければならない。
たとえば、「Aさんは信頼できる人だから、あの人の言うことは間違いない」ということがある。
そこにはAさんと関係者の間に強い信頼に基づいた人間関係が存在し、Aさんには「人望」があると言われる。
いったいAさんとはどんな人であろうか。
Aさんと関係者の間に強い信頼関係があり、Aさんに「人望がある」ということは、過去にAさんと関係者間において、Aさんも満足し、そして関係者も満足した問題解決(ウイン・ウイン型問題解決)が行われた実績があることを意味している。
そして、それを基礎にして現在でも相互の信頼関係が継続している。
仮にAさんと関係者の関係がゼロ・サム関係であるとしたら、それは一般に言う「裏切られた」関係であり、Aさんとは二度と付き合いたいとは思わないだろう。
このような信頼関係は、当然、リーダーと部下との間にも当てはまる。
信頼関係のある職場環境とは、リーダーと部下との間にも当てはまる。
信頼関係のある職場環境とは、リーダーと部下との間にウイン・ウイン関係が存在し、リーダーと部下が積極的に協力関係を維持発展している関係にあることを意味する。
リーダーには、このようなエンジンを起動させるために、ウイン・ウイン関係にもとづく協力関係を維持発展させる技術が必要なのである。
これが「人間関係力」である。
6.チーム運営力
●プロ集団のチームの特性
問題解決型リーダーの第六の経営スキルは、「チーム運営力」である。
組織とは、二人以上の人間の集まりを意味する。
なぜ複数の人間が必要なのかといえば、それは一人ではとうてい解決不可能な問題を解決するためだ。
とりわけ戦略的な課題を解決するためには組織内あるいは組織横断的な「チーム」が編成される。
それは目に見える形であるか否かを問わないが、いずれにせよ、そのチームはプロの専門家集団によって構成される。
例えば、四人のチームメンバーはおのおの異なる専門領域のプロによって構成されている。
いま、このチームで非日常的な問題を解決する場合を想定しよう。
四人はそれぞれ過去に似たような案件の問題解決で取得したノウハウ情報を、チーム内のディスカッションを通じて交換する。
つまり情報共有化である。
そして、さらなる議論による情報の高度化の過程を経て、問題解決情報が創造され、そして的確な問題解決が行われる。
それによって、一人では困難な問題もチームで解決することができる。
プロによる問題解決は、それが複雑で困難な問題であればあるほど、その問題解決後の彼らの満足度は大きい。
リーダーはそのようなプロの自己実現の機会を常に提供し、チームを活性化させるような運営能力が必要となる。
そして、チームにおけるリーダーとメンバーはヨコ関係にあるため、リーダーの積極的なリーダーシップによって、リーダーと部下や部下同士の間に信頼関係が創られることが基本となる。
プロ集団を統括するチームの運営には、これまでに見た五つのスキルをすべて活用し、プロのメンバーが満足できる、すなわち自己実現が可能になるような条件設定が必要となる。
一般に、プロは自己の専門性に強い自信と誇りを持つ。
それゆえに自己主張も強く、利害関係に敏感である。
そして、その利害関係は単に金銭等の経済的条件を超えて、自己の信念や価値観を含めたより高度で複雑な側面を持つ。
たとえば「面子を失う」ような扱いを受けると、彼らは強く反発する。
自説を曲げない意固地さも持ち、時にそれは「孤立」につながる。
これは欧米でも同じだ。
「losing face」という表現があるように、たとえばリーダーがメンバーを人前で叱責したとすると、例えメンバーに責任があったとしても、リーダーは「配慮が足りない」とみなされ失格の烙印を押される。
チーム運営は不可能と評価され、リーダー交代となるのである。
そのようなプロ集団の運営のためにはすべてのスキルが必要だと述べたが、なかでも重要なのはウイン・ウイン型問題解決力である。
これがチーム運営を成功させる鍵となる。
●プロ集団にはなぜウイン・ウイン型リーダーシップが必要か
プロ集団を運営するためには、もちろん人間関係力は必要であるが、比較の視点からすれば、ウイン・ウイン型問題解決力のほうが優先されることがわかる。
そこに、問題解決型リーダーシップが必要とされる理由がある。
別の言い方をすれば、オーケストラの指揮者のようなリーダーシップが求められるのだ。
指揮者はまさに、楽器演奏者という、異なる専門領域を持ったプロ集団を統率するリーダーである。
オーケストラでは、各楽器が奏でる特色ある音色を指揮者が統合することによて、単独の楽器では創りえない素晴らしい音色が生みだされる。
それは指揮者と楽員間の相互の信頼関係がなければ実現しない。
このオーケストラの指揮者と楽員との関係のように、問題解決型リーダーはプロのメンバーの異なる意見を聞き、それを統合して問題解決を行う。
それにはリーダーとプロのメンバー間の信頼関係の「きづな」がないと実現しない。