今週はいわゆる「GCP運用通知」の改正を見ていきます。
今回の改正で最も大きなポイントは、その通知のタイトルですね。
「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」(平成24年12月28日:薬食審査発1228第7号)です。
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http://www.jmacct.med.or.jp/plan/files/gcp121228_1.pdf(ちなみに上記のリンクは日本医師会の治験促進センターにアップされている通知にリンクしています。重宝するなぁ、日本医師会の治験促進センターって。すごく治験の促進(特に医
師主導型の治験の促進に大きく貢献していると思う。)
今回の通知から「ガイダンス」であることを前面に打ち出しています。
その表紙にはこう記載されています。
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なお、GCP省令の規定に合致し、被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上が図られ、治験の科学的な質及び試験の成績の信頼性が確保されるのであれば、本ガイダンス以外の
適切な運用により治験を実施することができます。
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条件付きですが「本ガイダンス以外の適切な運用」で治験を実施することも可能であることを明記しています。
とは言ってもね、実質、まずは、このガイダンスが基本に動くとは思います。
しかし、その後、時間が経つと画期的なアイデアが出てきて、「良い方向」で治験が効率的に運用される可能性もあるわけです。
逆に、パワーのある治験依頼者(製薬会社)の勝手な解釈で、今以上に、複雑になる可能性もあります。
どうか、前者であることを願って止みません。
なお、蛇足ながら、念のために言うと上記のガイダンス(通知)を見ると四角い枠で囲んであるところは「GCP省令」ですので、これは動かしようがありません。
その枠外に記載されている部分が「ガイダンス」なので、ここが変更可能ということですね。
さて、今回のGCP運用通知の改正で「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」となってからの主な変更点は上記のPDFファイルの2ページ目に下記のように
記載されています。
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●旧運用通知からの主な改正点
1.多施設共同治験を実施する場合、自ら治験を実施しようとする者及び自ら治験を実施する者として、治験責任医師だけでなく、代表して治験の計画を届け出ようとする治験調整医師
及び届け出た治験調整医師も含めることとした。(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号。(以下「GCP省令」という。)第2条第22項、第23項)
2.治験の依頼(実施の準備)及び管理に係る業務を委託することができる範囲を「全部又は一部」とした。(GCP省令第2条、第7条第1項、第12条第1項、第13条第1項及び第2
項、第14条、第15条の4第1項、第15条の8第1項、第15条の9、第29条)
3.治験の契約に当たって文書に記載する必要がある事項のうち、治験責任医師の職名、治験分担医師の氏名及び職名、目標とする被験者数の記載を不要とした。(GCP省令第13条第
1項)
4.治験の文書による契約について、電磁的方法により締結する場合にあっては、実施医療機関の長ではなく実施医療機関の承諾が得られれば良いこととした。(GCP省令第13条第2
項)
5.治験薬の管理に関する手順書については、実施医療機関の長ではなく実施医療機関に交付すれば良いこととした。(GCP省令第16条第6項、第26条の2第6項)
6.治験依頼者は、被験薬の副作用によるものと疑われる疾病等の副作用等症例について、初めて治験の計画を届け出た日等から起算して1年ごとに、その期間の満了後3月以内に治験
責任医師及び実施医療機関の長に届け出ることとした。(GCP省令第20条第2項)
7.製造販売後臨床試験の際、製造販売後臨床試験依頼者が製造販売後臨床試験責任医師と実施医療機関に通知している重篤ではない副作用等報告(薬事法施行規則第253条第1 項第3号
に規定するもの)は不要とした。(GCP省令第56条)
8.臨床研究中核病院等が他の実施医療機関とネットワークを形成した場合、共同で事務局を設置し、治験の契約を行うことができることとした。(GCP省令第13条、第38条)
9.あらかじめ、治験依頼者等、治験審査委員会等及び実施医療機関の長の合意が得られている場合は、副作用に関する通知に限り、治験依頼者等は治験審査委員会等に直接通知するこ
とができることとした。(GCP省令第20条第2項及び第3項、第26条の6第2項、第32条第3項、第40条第1項)
10.実施医療機関の長は、了承した治験分担医師及び治験協力者のリストの写しを保存しなくてもよいこととした。(GCP省令第36条、第43条第1項)
11.記名押印又は署名することが規定されていない文書については、規定された内容が記
載されている場合にあっては正本と写しの区別は不要とした。(GCP省令第13条第2項、第32条、第36条)
12.その他の記載整備
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こういう箇所を読むときの注意点は必ず「本文」をあたる、ということです。
たとえば上記の変更点の3のうしろに(GCP省令第13条第1項)と記載されていますね?
そしたら、必ず、その(GCP省令第13条第1項)のガイダンス部分を確認しましょう。
上記の表紙のところだけ読んで分かったつもりにならずに、必ず、該当の場所を読んで、どのように記載されているかを見ます。
そうすると、上記の文面から自分が理解したこととは違うことを発見します。
たとえば、僕は上記の「9.あらかじめ、治験依頼者等、治験審査委員会等及び実施医療機関の長の合意が得られている場合は、副作用に関する通知に限り、治験依頼者等は治験審査委
員会等に直接通知することができることとした。(GCP省令第20条第2項及び第3項、第26条の6第2項、第32条第3項、第40条第1項)」を読んで、「あぁ、なるほど、副作用情報
はIRBに直接通知すればいいんだ。医療機関の長には不要なのね」と思ったのですが、実際のガイダンスは以下のとおりです。
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4 あらかじめ、治験依頼者、治験審査委員会等及び実施医療機関の長の合意が得られている場合においては、第20条第2項及び第3項に関する通知に限り、治験依頼者は、治験責任医師
及び実施医療機関の長に加えて治験審査委員会等にも同時に通知することができる。
また、この場合においては、第40条第1項の規定に基づき実施医療機関の長が治験審査委員会等に文書により通知したものとみなす。
(PDFで言うと53頁。画像に出ている頁で言うと47頁目。)
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おお!「治験責任医師及び実施医療機関の長に『加えて』治験審査委員会等にも同時に通知することができる。」なんだ! ですね。
IRBに通知すれば病院長には「不要」ではなくて、病院長に「加えて」IRBに通知することができる、という記載なんですね。
そういうことで、必ず、本文をあたりましょう。
さて、上記の「●旧運用通知からの主な改正点」の最後に、ちらっと「12.その他の記載整備」とあります。
これが、実は「くせもの」なんですね。
丹念にガイダンスを読むと、「あら?こんなことも書かれている!」というのが意外とあります。(それも、結構、興味深いものが。)
今日はそれらをピックアップしたいと思います。(僕が興味を持ったところだけですので、これが全てではありません。なので、必ず「自分」で「全文」を読みましょう!)
とりあえず、僕が興味を持った順番に紹介します。
まずは、「サンプリングSDV」について、です。
ガイダンスのPDFで言うと54頁目(表示されている頁で言うと48頁目)にはこう記載されています。
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5.
(前略)
臨床研究中核病院等が当該実施医療機関及びその他の施設において治験の実施(データの信頼性保証を含む。)を適切に管理することができる場合においては、必ずしもすべての治験デ
ータ等について原資料との照合等の実施を求めるものではないこと。
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上記のように「すべての治験データ等について原資料との照合等の実施を求めるものではない」ということです。
つまり100%のSDVを求めるものではない、つまり、サンプリングSDVでもいいですよ、と記載されています。
ただし、もちろん、条件付きですね。
「治験の実施(データの信頼性保証を含む。)を適切に管理することができる場合において」はいいですよ、ということです。
これで、保守的な治験依頼者も胸を張って(別に張らなくていいですが)、サンプリングSDVを実施できます。
でも、だからと言って、「当局がいいと言ったからサンプリングSDVをやった。でも、実際にはデータはボロボロでした」という言い訳は通じません。
治験依頼者が自らの判断と責任で、やるべきですね。(言うまでも無く。)
サンプリングSDVの実施が可能な条件として、まずは、そのもととなる(病院で発生する)データの信頼性とCRFへの反映がシステマティックに管理されている、ということがあります。
「グダグダ」なもとでサンプリングSDVを行って、最終的に困るのは治験依頼者ですので、しっかりとそこは見ていきましょう。
ガイダンスの思わぬ追加事項をさらに見ていきましょう。
「治験の契約」関係で言うとまずは「●旧運用通知からの主な改正点」にもあるとおり、「ネットワークの事務局が治験の契約を支援する業務」を行ってもよいということが、PDFの30
頁目に記載されています。
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実施医療機関と治験の依頼をしようとする者との契約を支援する業務に関しては、臨床研究中核病院等のネットワークの事務局等、当該実施医療機関以外の者が行っても差し支えない。
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「改正点」に記載されていませんが、同じく「契約書」に関しては、PDFの29頁目に次のように記載されています。
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3
契約書には、次に掲げる事項が含まれていること。
なお、これら事項については、必ずしも一の契約書にすべて含まれていなくても差し支えない。(例えば、複数の治験に共通する事項等に関する基本的な契約書と、各治験の個別事項等
に関する契約書を、別個に作成・締結することでも差し支えない。)
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上記のとおり「包括的な契約」を結んでおいて、個別の事項は別に契約書を作る、ということも可能なんですね。
ついでに「契約者」は「院長」ではなく「院長が指名した者」でもよいとなっています。(PDFの29頁目)
さらに、「契約書」関係です。(PDFの31頁目)
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7
第12号「治験の費用に関する事項」には、費用算定が可能な内容を記載することで差し支えない。
なお、本項の記載に基づく治験の費用の支払いは、治験の実績に応じた適正なものであること。
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上記の文章は以前の運用通知に無かったものです。
注目すべきは「験の費用の支払いは、治験の実績に応じた適正なものであること」です。
「出来高払い」にしましょうね、ということですね。
「前納制で返却無し」は止めましょうね。
(しかしなぁ、僕が現役のモニターだった頃、国立系の病院はほとんどが「前納制で返却無し」で、「出来高」はできない、いったん、国に入ったお金は返せません!と言い張られたも
のですけれどね。 ・・・・やればできるじゃん! ですね。)
IRBに提出する書類で興味深いのはPDFの99頁目の次の文書です。
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(6)その他治験審査委員会が必要と認める資料(企業との連携がある場合、利益相反に関する資料等)。
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「利益相反」は最近はうるさくなりましたからね。
場合によっては、「利益相反」に関する資料をIRBから要求される、ということです。
どんな資料を作ればいいんだろう?
参考になるかどうか分かりませんが、下記のようなものがあります。
「厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest:COI)の管理に関する指針」
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http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.htmlさて、あとは、ガイダンスのページの順番に気づいた点を記載します。(繰り返しますが、あくまでも僕の興味の範囲内のことしか記載しませんので、これが全てではありません。)
今までのGCP運用通知からの変更点、追加事項です。
●●●PDFの10頁目(治験調整委員会を構成する人)●●●
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7
(前略)
なお、治験協力者等も治験調整委員会を構成する委員となることは可能である。
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「治験協力者」も「治験調整委員会を構成する委員」になれるのですね。
ところで「治験調整委員会を構成する委員」とは、どんな委員なのでしょう?
治験協力者が「薬剤師」の場合、当然、「治験調整医師」にはなれませんね、医師ではないのですから。
なので、治験調整医師ではないけれど、多施設共同治験で、治験の調整を行う委員にはなれる、ということなのでしょうか。(詳細は僕は分かりません。)
●●●PDFの13頁目(副作用と判断する際の参考ポイント)●●●
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(10)「副作用」とは、
(前略)
因果関係の判定を行う際には、投与中止後の消失、投与再開後の再発、既に当該被験薬又は類薬において因果関係が確立、交絡するリスク因子がない、曝露量・曝露期間との整合性があ
る、正確な既往歴の裏付けにより被験薬の関与がほぼ間違いなく説明可能、併用治療が原因である合理的な可能性がみられない等を参考にすることができる。
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●●●PDFの15頁目(検査機器の精度管理について)●●●
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4
(前略)
なお、確認すべき検査の範囲や具体的な確認方法は、各検査データの当該治験における位置づけ(主要評価項目であるかどうか等)を考慮し、治験依頼者と実施医療機関との間で取り決
めること。
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●●●PDFの19頁目(治験実施計画書に監査担当者の氏名等の記載が不要となった)●●●
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2
(前略)
ただし、監査担当者の氏名、職名、電話番号等は記載しなくても差し支えない。
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●●●PDFの26頁目(医療機関の長へ提出する資料の一体化)●●●
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2 本条各号に規定する文書は、必ずしも個別の作成を求めるものではなく、記載すべき内容が確認できる場合にあっては、複数の文書を1つにまとめることが可能であること。
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●●●PDFの27頁目(CROは治験届及び副作用報告を提出する行為を受託できない)●●●
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1
(前略)
治験計画の届出及び規制当局への副作用等の報告については、当該業務を、開発業務受託機関に委託することはできない。
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●●●PDFの29頁目(CROと医療機関の二者契約)●●●
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2
(前略)
なお、治験依頼者による治験の準備及び管理に関する業務、実施医療機関における治験の実施に関する業務が円滑に実施できる場合にあっては、治験の依頼をしようとする者、開発業務
受託機関及び実施医療機関の三者で合意の上、開発業務受託機関及び実施医療機関の二者の契約としても差し支えない。
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●●●PDFの33頁目(治験国内管理人の責務)●●●
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1 本邦内に住所を有しない治験の依頼をしようとする者に選任された治験国内管理人は、治験の依頼の基準に従い、本邦内における治験の依頼に係る一切の手続を行うとともに、厚生労
働大臣に治験の計画の届出等を行うこと。
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●●●PDFの48頁目(治験薬での英語表記)●●●
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1
(前略)
欧米等で承認のある未承認薬を用いたブリッジング試験等の場合であって、治験実施計画書にその旨を記載し、治験審査委員会の承認を得たものについては、英文で記載することで差し
支えない。
(中略)
また、国際共同治験又は欧米等で承認のある未承認薬を治験薬として用いる試験等の場合であって、英文等で販売名等が記載されているものを治験薬として用いるときは、実施医療機関
において適切に管理がなされるための必要な措置を講じておくこと。
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上記で注目すべき点は「欧米等で承認のある未承認薬を用いたブリッジング試験等の場合であって」という点です。
さらに「国際共同治験又は欧米等で承認のある未承認薬を治験薬として用いる試験等の場合であって」
こういう場合もあり得る(認められている)といことですね。
国内では未承認で、外国では承認されているものを治験薬として試験をしてもよい、ということです。(これは以前からも言われていましたが、その点を明記し、さらに注意を促してい
ます。)
●●●PDFの101〜102頁目(副作用情報をIRBが審査して、その結果を通知できる相手)●●●
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4 治験依頼者による治験においては、あらかじめ、治験依頼者、治験審査委員会等及び実施医療機関の長の合意が得られている場合には、第20条第2項及び第3項に関する治験を継続し
て行うことの適否についての意見に限り、治験審査委員会等は、実施医療機関の長に加えて治験責任医師及び治験依頼者にも同時に文書により意見を述べることができる。
この場合、本条第6項の規定に基づき、治験審査委員会等の意見を実施医療機関の長が治験依頼者及び治験責任医師に文書により通知したものとみなす。
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●●●PDFの110頁目(ネットワークの治験事務局設置は可能)●●●
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1
(中略)
なお、臨床研究中核病院等が他の実施医療機関とネットワークを形成する場合においては、複数の実施医療機関の長が共同で治験事務局を設置して差し支えないが、その責任は各実施医
療機関の長が負うこと。
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●●●PDFの117頁目(治験協力者と治験分担医師を追加する場合)●●●
↓
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1
(前略)
実施医療機関の長の了承を受けた時点から業務を分担して差し支えないが、治験分担医師については治験審査委員会による審査が必要となること。
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以上が、ざっと「GCPのガイダンス」を読んで、僕が気づいた(興味を引いた)点です。
「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」(平成24年12月28日:薬食審査発1228第7号)
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http://www.jmacct.med.or.jp/plan/files/gcp121228_1.pdf