2012年11月22日

治験における「パラダイム・シフト」(個人編)

「パラダイムシフト」とは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを言う。

簡単に言うと、ICH-GCPが導入される、というようなことだ。



製薬協の外部研究所に「医薬産業政策研究所」がある。

そこが定期的に発行している「政策ニュース」がとても役立つ。
    ↓
http://www.jpma.or.jp/opir/news/index.html


例えば「政策研ニュース No.37」が素晴らしい。
    ↓
http://www.jpma.or.jp/opir/news/news-37.pdf


特に冒頭のレポートがいい。

●Patient Reported Outcome と新薬開発

−患者による直接評価に焦点をあてた新薬の臨床評価−


このレポートの出だしが「Newsweek」のようにかっこいい!

で、中身は読んでもらえばいいのだけれど、簡単に言うと「被験者の感想を医師の判断を通さずに、治験のデータとして使う」というものだ。

たとえば、「鎮痛剤」なんかは、この方法のほうがいい。

「鎮痛剤」の効果を一番知っているのは患者自身だからね。

でも、それが簡単にいかないというのが上記のレポートの趣旨なのですが。


ただ、こういう「考え方」に接した時に、自分はどう思うか? というのがとても大事。

「ふん!」で終わるかもしれないし、「へ〜〜!」となるかもしれない。

人類の科学は無数の「へ〜〜!」で成り立ってきた。


ところで、もし、「患者自身の評価」が治験のデータとして使われるということになったら、それは「パラダイムシフト」だ。

そして、それは業界とか社会とかではなく、「個人」にも起こり、それが自分の人生を豊かにしてくれる。


今や、自己啓発書の定番中の定番になった「「7つの習慣」では、このパラダイムシフトを重視している。

僕にも、これまでいくつかの大きなパラダイムシフトがあった。

たとえば、僕が治験啓発用に最初に作ったサイトの「医薬品ができるまで」というのがある。

このサイトを初めてネットに公開して(2000年6月頃)、2、3週間目頃に、ゲストブックにいきなり「わし」さんという方が「治験に参加したことがある」と投稿してくださった。

「わし」さんは「脊髄小脳変性症」という難病に罹患されていて、その治療薬の治験に参加したのだった。

ちなみに、その治験薬は承認され、「セレジスト」として販売される。


で、「わし」さんは治験では結局、「プラセボ」に割り付けられたらしい。(もちろん、ダブルブラインドの治験だった。)

この「わし」さんとの出会いが僕にはパラダイムシフトになった。

CRCや治験責任医師等は直接、患者と話し合うことがあるが、治験依頼者側にいると、被験者と会話をすることがない。

それだけでも、僕にとっては刺激になった。

また、「医薬品ができるまで」を立ち上げた当時は、僕はさかんに「治験は倫理的に行われます。そのために、病院の治験審査委員会で倫理面を審査されます」というような、治験関係者には「あたり前」のことを強調してサイトに書いていた。

ところが、「わし」さんは「病院の倫理委員会は邪魔だ。」とゲストブックに書いてきた。

なぜかと言うと、「わし」さんは自分の息子(当時、12歳ぐらい)に「脊髄小脳変性症」の遺伝子検査を病院にやってもらおうとしたのだが、病院の倫理委員会から「まだ自分の病気を受け止められる年齢ではない」というような理由で、遺伝子検査をやってもらえなかった、という経緯があるからだ。

「わし」さんは、息子さんに、自分が将来、父親と同じ病気になる可能性があるならば、それなりの覚悟を持って生きて欲しいからという理由をゲストブックに書いてきた。


この「わし」さんの気持ちと、当時の病院の「倫理委員会」の結論の是非は、とりあえず、置いておく。

僕は「そうか。人によっては倫理委員会が邪魔だと思うし、むしろ、非倫理的だと思うんだ」ということがショックだった。

これは、僕にとって治験実施側から治験(あるいは治療)を受ける側としての視点を持つ必要性を強烈に感じさせる出来事だった。


「わし」さんとはメールのやりとりも始めて、当時、東北地方に住まれていた「わし」さんに会うために「学会に参加」することにかこつけて、仙台まで行った。

その頃の「わし」さんはまだ、杖を使えば、なんとか自力で歩けていた。

ただ、椅子に座り続けることは辛いらしく、僕の宿泊するホテルのベッドに横たわって、僕と会話した。

「唾液」をうまく飲み込めない(病気のせいで喉の筋肉が衰弱しているため)ので、会話中に何度もティッシュで唾液を出していた。

「目」も固定できず、「わし」さんの目玉はゆらゆらしていた。

水は飲みづらく、むしろ、ジェルタイプのウイダーゼリーのようなもので食事代わりにしていた。


当時、僕は会社で「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の治験の監査をやっていた。(のちに「リルテック」として販売される。)

この病気も「わし」さんと同じ症状を出す病気だった。

僕は監査をやりながら、症例報告書の中の「人工呼吸器」を装着した日のチェックや「指で物をつかむ力」のデータをチェックしていた。

「わし」さんと出会う前は、監査をしながら、何も感じていなかった。

しかし、「わし」さんと出会ってから、この監査をやりながら患者や家族のことを考えるようになった。


この「わし」さんとの出会いが、僕の一番の大きなパラダイムシフトになった。


2番目のパラダイムシフトは、「モニターへの道」を作った時に起こった。

このサイトを作ったのは、僕がまだ製薬会社で働いていた時のことだ。

だから、知らず知らずのうちにモニターと言えば製薬会社のモニターとしか定義されていなかった。

そのため、そのサイトの中でCROのモニターに対して、とても失礼なことを書いていた。

僕は何の気もなく、書いた文章だった。

ところが、このサイトをネット上にリリースして、すぐに、あるCROのモニターからメールを頂いた。

そのメールの中で、その僕の不適切な個所を指摘してくださっていた。

そのメールを読んでから、その箇所を読むと、なるほど、これは、CROのモニターなら怒るな、と思った。

それで、すぐに訂正して、その旨をメールをくださったCROのモニターの方に連絡した。

そんな僕が、今はCROで働いているわけだけど、当時は、これが僕にはパラダイムシフトだった。

人間は、ついつい、自分が所属している組織の立場で考えるんだな、と。


3番目のパラダイムシフトは、サイト版の「ホーライ製薬」を立ち上げた時だった。

このサイトのトップページに3人の方の「体験談」が載っている。

以下の3つです。

ヨネヤマさんの体験記「妻と抗生物質」

がんの告知「あもうさん」の場合

バジルさんの「治験体験記」


この3人の方は僕の「医薬品ができるまで」や「ホーライ製薬」の読者の方で、自発的に、僕にメールでご自分の体験談を送ってくださった。

いずれも、とても貴重な体験談だ。

特に「バジルさんの「治験体験記」」は、僕の強烈なショックを与えた。

これまた、CRCや治験責任医師等では患者から感想を直接、聞かれることがあるだろうけれど、治験依頼者側にいる僕には強烈だった。

「バジル」さんは、治験業界とはまったく縁もゆかりもない、ごく普通の「一般市民」の方で、なおかつ「文系」の方だ。

だから、「バジル」さんの体験記の中には僕が読むと治験を誤解している印象を与える箇所もあったが、もちろん、そのまま、原文のまま、公開した。


以上は、僕がネットを通じて受けたパラダイムシフトだ。


今日の最後に、ネットではないリアルな体験から。

僕が40歳の時、ごく身近な近親者が乳がんになった。

僕は、その告知にも立ち会った。

抗がん剤のタキソテールの「卵巣がん」の治験をやっていた僕は普通の人よりも「がん」に対する知識はあると思っていたが、告知に立ち会った時は、一瞬にして頭が真っ白になった。

右乳房の全摘出手術にも立ち会った。

手術が終わる頃、手術室から僕は呼ばれた。

手術室の出口の(本当は別の名前があるのかもしれないが)ところで、執刀医から、摘出された乳房とリンパ腺を見せられ、説明を受けた。

「これが、がん、ね。で、これがリンパ。多分、リンパにはがんがない」と言われた。

たまたま、執刀医はタキソテールの「乳がん」の治験責任医師で、僕がタキソテールの「卵巣がん」の開発をやっているのを知っていたので、執刀医は最後にこう付け加えた。

「さいわい、タキソテールを使わずにすみそうだ。」


僕は「卵巣がん」の患者のカルテもCRFも何十とチェックしてきたが、卵巣がんの患者がどんな気持ちで治験に参加しているかなんて考えたこともなかった。

しかし、この体験後からは、常に治験に参加してくださった「がん患者」と家族のことを考えるようになった。


以上のネットを通じてと感じたことや、実際の体験を通して感じたことを、僕はいつも新入社員のモニターに紹介する。

そして、必ず、こう言う。

「こんな思いをして治験に参加してくださった患者さんのデータを、モニターのせいで、申請データから削除せよ、となったら、それは『患者の命』に対して、失礼だからね!」


話は最初に戻します。

「政策研ニュース No.37」の中の「Patient Reported Outcome と新薬開発−患者による直接評価に焦点をあてた新薬の臨床評価−」のような、これまでの自分の考え方を変えるような事実や知識に触れると、パラダイムシフトが起こることがある。

それは、あなたの人生を豊かにしてくれる。

何も劇的な科学的革命ではなくても、日常のちょっとしたことから、急に開眼することがある。

それを大切にしていこう!


明日は、パラダイムシフトの「企業編」です。




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2012年11月20日

製薬会社における「寝耳に水」と「瓢箪から駒」

昨日は製薬会社の合併の悲哀を書きましたが、今日は、まず「寝耳に水」についてです。


製薬業界には面白いビジネス慣習があって、自社で非臨床試験までやったけれど、臨床開発以降の権利は別の会社に売っちゃう、とか、他社の治験薬だけどフェーズ2から我が社でやります、その代わり、フェーズ2が成功したら、何十億円を、フェーズ3が成功したら何百億円をその会社に払います、とかね。

これを「ライセンシング」という。

製薬会社の社内には「ライセンシング部」という部署まであったりする。



こんなことを研究している報告書もある。
   ↓
「ライセンシング成功のカギ  製薬企業の研究開発生産性向上のための打ち手」
   ↓
http://www.bcg.co.jp/documents/file25135.pdf

う〜〜ん、この報告書を出しているのは世界でも有数のコンサルティングファームの「ボストンコンサルティング」だね。

この会社には「リエンジニアリング」の件で1年以上、お世話になったことがある。

一度でも、コンサルティング会社と働いたことがある人は分かると思うが、彼らは信じられないくらいの速さで信じられないくらいの資料を作る。

まるで、作った資料のキロあたりでお金を払ってもらっているかのように。


で、僕が働いていた外資系製薬会社が他社と合併するにあたり開発パイプラインの見直しがあって、昨日まで「イケイケ、ドンドン」だったプロジェクトが別の会社に売られることになった。

まさに、今、血眼になって頑張っているモニター達の前にそのプロジェクトのリーダーが会議室から走ってきて、「おい、おまえら、もう、仕事しなくていいぞ!やめ、やめ!」と叫んだ場面を今でも覚えている。

モニターにとっては、まさに「寝耳に水」だ。というか「寝耳に熱湯」だ。

「はぁ?」だ。

製薬会社で働いていると、こういうことがある。

「俺たちに明日は無い」だ。

製薬会社で働くときは、そんなことも起こりうると覚悟をして日々の仕事をやらなければならない。




さて、次に「瓢箪から駒」の話。

今年の夏は「節電」が叫ばれたよね。

原発がみんな止まったからね。

特に「関西電力管内」はそうだった。

僕が勤めている会社の大阪支店では7月から9月いっぱいまで「午前10時〜午後3時」はエアコンを止めるので、社員はよそで(たとえばマクドナルドとか図書館とか)で働いていてね、という作戦を打ち出した。

社内で働いてもいいけれど、エアコンは使用禁止!ということになった。

それはそれで大変だったけれど、僕にとっては「研修」をどうするか? という問題も発生した。

それまで研修は大抵、午後1時30分から午後4時30分までの3時間の研修、という感じでやっていた。

でも、午後は3時からしか働けないとなると、どうする? となった。

大阪で働くモニターも少ない貴重な時間の3時間も研修に消費されることなんて受け入れられる状態ではなかった。


僕は悩んだ。

そして、苦肉の策として3時間の研修を1時間に短縮することにした。

すると、これが結果的に良かったのだ。

何が良かったかというと、まず、出席率が上がった。

そりゃそうだ。

モニターが平日の昼間に3時間の研修なんて、「出てられねーや」となる。

でも、1時間ぐらいなら、気分転換にもなるし、「まぁ、出てやるか」となった。

さらに、講師側としても3時間を1時間にするのだから、研修のポイントを絞らざるを得ない。

要点は何か?をひたすら考えた。

そして贅肉をそぎ落としたコンパクトな研修を考えた。

だから、非常に効率の良い研修ができるようになった。

今では節電もないので、通常どおりの勤務体制になったけれど、研修は今でも1時間にしている。

研修の資料作りも楽になった。

1時間でどうしても終わらないのは(そういうのはほとんど無いけれど)、また来月やります、とした。

これが「瓢箪から駒」だ。


人間、困ったり、切羽詰まるといいアイデアが出るものです。

ついでに・・・・・・。

「目から鱗が取れる」ということわざもあるよね。

何かがきっかけに、急に物事の理解が進んだり「なるほど!分かった!!」ような場合に使う言葉だ。

学生時代の実習の時に、ある化学反応式が分からないので、講師に質問した。

すると、ますます分からなくなった。

で、講師から聞かれた。

「この説明でよく分かった?」

かえって分からなくなった僕は答えた。

「まるで、目に鱗が入ったようです。」と。

すると、その講師が「その言い方は間違っているよ。正しくは「目から鱗が取れた」だよ。」

いやいや、そりゃ知っていますよ。だから、皮肉を込めたジョークで言ったんじゃないですか、とは言えずに「はぁ、そうですか」とだけ答えた。

ここから得られる教訓はジョークや皮肉は相手の理解度と知識に依存する、また、相手が僕のことをどの程度、理解しているかによって、「せっかくの」ジョークも皮肉も通じない、ということだ。


昔(1979年頃)、NHKに「テレビファソラシド」という番組があった。

永六輔がプロデュースし、司会もやっていた。

初めて「タモリ」をNHKに出演させた番組。(あの頃のタモリはまだ「ハナモゲラ語」等を駆使した、毒のあるタモリだった。そのタモリがNHKに出演できたのは、ひとえに永六輔の力だ。)

その「テレビファソラシド」にある視聴者から投書があったと永六輔が紹介していた。

その投書にはこう書いてあった。

「テレビファソラシドは間違いで、ドレミファソラシドが正しい言い方です。」と。


ジョークひとつとっても難しい・・・・・・・。

どうでもいいんだけれど。


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2012年09月27日

アルカロイドは薬の源

今週は『製薬会社』らしく医薬品に関わる話題です。

特に「植物由来」の薬について見ていきたいと思います。


「ベルベリン」

ベルベリン(berberine)とはキハダ(ミカン科)やオウレン(キンポウゲ科)などの植物に含まれるベンジルイソキノリンアルカロイドの1種。

ベルベリンという名前は、メギ科メギ属の属名(Berberis)に由来する。

対アニオンの種類の違いにより、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、タンニン酸ベルベリンなどが知られる。

いずれも抗菌・抗炎症・中枢抑制・血圧降下などの作用があり、止瀉薬として下痢の症状に処方されるほか、目薬にも配合される。タンニン酸ベルベリンを除いて強い苦味がある。

僕がOTCメーカーで働いていた頃、「タンニン酸ベルベリン」を配合した「止瀉剤」(下痢止め)を作っていた。

僕は胃腸が弱かったので、よく「下痢」をして、この「タンニン酸ベルベリン」を配合した「止瀉剤」(販売名:ネオゲドミン)を愛用していた。
   ↓
http://www.yoshidapharma.com/product.htm



「止瀉剤」の逆の「瀉下薬(しゃげやく)」(所謂、下剤)として使われる「センノサイド」。

センノサイドは「センナ」の成分。

センナとは、マメ科ジャケツイバラ亜科の植物である。

生薬名としては本種の小葉を指す(日本薬局方での基原植物の定義による)。

生薬としての「センナ」は瀉下剤である。

薬理成分のセンノシド (sennoside) が腸内で分解され、瀉下効果を示す。

このセンノシドを成分としたソルダナ、プルゼニドといった多数の医薬品(いずれも商品名)もあり、胃のレントゲン検査後のバリウム(正確には硫酸バリウム)排泄の目的や便秘症に用いられる。

僕も毎年、健康診断でバリウムを飲んだあと、必ず、プルゼニドを飲まされています。



「ジギトキシン」も植物由来の薬としては外せない薬だよね。

ジギタリス (Digitalis) は、オオバコ科の属の一つ。

地中海沿岸を中心に中央アジアから北アフリカ、ヨーロッパに20種あまりが分布する。

一・二年草、多年草のほか、低木もある。

園芸用に数種が栽培されているが、一般にジギタリスとして薬用または観賞用に栽培されているのは、D. purpurea種である。

ジギタリスには全草に猛毒があり観賞用に栽培する際には取り扱いに注意が必要である。

ジギタリスの葉を温風乾燥したものを原料としてジギトキシン、ジゴキシン、ラナトシドCなどの強心配糖体を抽出していたが、今日では化学的に合成される。

古代から切り傷や打ち身に対して薬として使われていた。

1776年、英国のウィリアム・ウィザリングが強心剤としての薬効を発表して以来、うっ血性心不全の特効薬として不動の座を得るに至っている。

ただし猛毒があるため、素人が処方すべきではない。

日本薬局方ではジギタリスの一種 Digitalis purpurea が医薬品として収録されている。

これはハトを使って効力を定量した「ジギタリス単位」という単位で効力を表示する。

詳細な定量方法は、日本薬局方を参照のこと。

「ジギタリスを使いこなせてこそ漢方医」という話もある。



「ノスカルピン」

ノスカピン(Noscapine)はモルヒネと同じくけしの液汁(アヘン)に含まれる植物アルカロイド性の成分。

ケシの未熟果実に傷をつけて滲出する乳液を乾燥したものをアヘンと言い、その主成分は麻薬のモルヒネです。

アヘンにはモルヒネ以外にも多くのアルカロイドが含まれています。

アヘンから単離された成分としてもっとも古いのがノスカピンで、1803年に単離されています。

当時は、アヘンの麻酔・鎮痛作用の成分と考えられて、麻酔睡眠薬を意味するnarcoticからナルコチン(Narcotine)と命名されました。

しかし、この成分には麻酔作用や鎮痛作用は無いことが明らかになり、ナルコチンの名称は不適当として、ノスカピンと改称されました。

アヘンに含まれるアルカロイドでは、ノスカピンはモルヒネについで2番目に多く含まれています。

薬としてはノスカピンには麻酔・鎮痛作用や依存性は無く、強い鎮咳作用があります。

ノスカピンは脳の咳中枢を抑制することによって鎮咳作用を示しますが、麻薬系の咳止め薬と異なり、呼吸を抑制することなく、また習慣性も無いので、『非麻薬性中枢性鎮咳剤』に分類されている医薬品です。

咳止め(鎮咳薬)としては1950年代から多くの国で使用されています。




次に「ガランタミン」。

ガランタミン (ニバリン、ラザダイン、レミニール、リコレミン)は軽-中度のアルツハイマー病や様々な記憶障害の治療に用いられる薬剤である。

特に脳血管障害を原因とするものに有効。

Galanthus属-スノードロップや他のヒガンバナ科植物(Narcissus属スイセン, Leucojum属-スノーフレーク、Lycoris属-ヒガンバナ)の球根や花から得られるアルカロイドである。

人工的に合成することもできる。

現代医学での利用は1951年に始まり、ソ連の薬学者MashkovskyとKruglikova-Lvovaによって行われた。

この2人によってガランタミンのアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用が証明された。

東欧、ソ連では長い間、重症筋無力症、ミオパチー、中枢神経疾患に関連する感覚・運動機能障害などの治療に用いられている。

米国でもアルツハイマー治療薬としてFDAに承認されている。


精製されたガランタミンは白い粉末状物質である。

可逆的なコリンエステラーゼ阻害剤であり、競合的拮抗薬である。

つまり、AChEの活性を低下させることで脳内アセチルコリン濃度を増加させ、アルツハイマーの症状を改善させると考えられている。




「コルヒチン」

コルヒチン(colchicine)とはユリ科のイヌサフランの種子や球根に含まれるアルカロイドである。

リウマチや痛風の治療に用いられてきたが、毒性も強く下痢や嘔吐などの副作用を伴う。

現在は主に痛風に用いられる。

また種なしスイカの作出にも用いられる。

ちなみに種なしぶどうの作出には「ジベレリン」を用いる。(ジベレリンは植物ホルモン。日本人が発見し構造決定した。)


イヌサフランはシチリア出身のローマ帝国の医者ペダニウス・ディオスコリデスの『デ・マテリア・メディカ』(『薬物誌』)において痛風に効くと記載されている。

その有効成分であるコルヒチンは1820年にフランスの化学者ピエール=ジョセフ・ペルティエとジョセフ・カヴェントゥによって初めて分離され、のちにアルカロイドとしての構造が明らかにされた。

微小管の主要蛋白質であるチューブリンに結合して重合を阻害し微小管の形成を妨げる。

細胞分裂を阻害するほかに、好中球の活動を阻害し抗炎症作用をもたらす。

痛風における疼痛抑制と抗炎症効果はこれによると考えられている。


コルヒチンは植物の細胞分裂時に染色体の倍加(染色体異常)を誘発する作用がある。

これを利用して種なしスイカ、あるいはその他の育種のための四倍体や倍化半数体の作出にも用いられる。

また、細胞分裂を阻害し、細胞分裂中期で分裂を停止させる性質を利用して核型の診断にも用いる。




「キニーネ」

キナ(機那)の樹皮に含まれるアルカロイド。

マラリア原虫に特異的に毒性を示すため、マラリアの特効薬として第二次世界大戦頃までは極めて重要な位置づけにあった。

その後、キニーネの構造を元にクロロキンやメフロキンなどの抗マラリア薬が開発され、キニーネは副作用が強いため代替されてあまり用いられなくなった。

しかし、熱帯熱マラリアにクロロキンやメフロキンに対して耐性を持つものが多くみられるようになったため、現在ではその治療に利用される。

また強い苦味を持つ物質として知られている。そのため、トニックウォーターに苦味剤として添加される。

日本では、劇薬に指定されている。

キナ属の植物は南米のアンデス山脈に自生する植物であり、原住民のインディオはキナの樹皮を解熱剤として用いていた。

マラリアはアメリカ大陸にはもともと存在しなかったが、後にヨーロッパ人の渡来とともに拡散したと推定されている。

その後偶然にキナ皮にマラリアを治療する効果が発見され、1640年頃にヨーロッパに医薬品として輸入されるようになったと思われる。


最近、「顧みられない熱帯病」に対する新薬の開発が流行で、たとえばアステラスでは次のプレスリリースを発表している。
   ↓
http://www.astellas.com/jp/corporate/news/pdf/120920_jp.pdf

いいことです。



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2012年04月27日

患者日誌を紛失したら?

男性機能不全の治験の最後の患者さんの投与後観察が終了。

あとは、DCFとして出されたCRF上の疑問点、不整合と思われるところを各医師にフィードバックし、CRFを固定するだけとなった。

ここまで来ると時間との勝負になる。



ヘンリー川崎とキャサリン立川は、電車の時刻表や飛行機の時刻表などを睨みながら、いかに効率的に各病院を回るか考える。

まるで西村京太郎の『時刻表サスペンス』に出てくる「十津川警部」みたいだ。

ヘンリー川崎は、明日は、高血圧の治験を説明に金沢のほうへ出張が入っていたが、そこから夜行で秋田の病院へ朝いちでアポをとってある先生にCRFを訂正してもらう予定だ。

この頃から、各モニターの机の上に「滋養強壮剤」が並び始める。

もちろん、自社製品だろうと他社製品だろうとも構わずに。。。。




秋田の「権三郎病院」の治験責任医師(ベントレー南先生)に会ったヘンリー川崎は、早速、ベントレー南先生にDCFに打ち出されたCRFの疑問点を聞いた。

ところが!! この治験で使われた患者日誌(「性交日誌」)が無い!

そうなると、治験に参加されたこの男性の勃起時間が分からないではないか!

原資料が無いのだ!!

「先生、どうしましょう?」

「う〜〜ん、確かこの患者さんから『性交日誌』は預かっていたんだけれどな・・・・・・。返しちゃったのかな・・・・・・。」

「患者さん自身が書くことになっている『性交日誌』が無いと、勃起していた時間が不明になってしまうんですが・・・・・・。」

「奥さんに聞いてもダメだろうしな。どうしょうか?」

「男性機能不全は、男性じゃないと分からないでしょうからね。」

「そうか?」

「ん?」

「う〜〜〜〜ん。」

「う〜〜〜〜ん。」

緑の風吹く秋田の「権三郎病院」の一室でこんな会話が朝から交わされていようとは、つゆ知らない東京オフィスのキャサリン立川であった。








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2012年04月26日

治験薬の分析方法

マラリア原虫由来の「免疫抑制剤」(開発コード)「HORAI-SAS10804」について、ハレ〜から報告が有った。

スタート物質から主な工程が28ステップ有ったが、その中でキーとなる中間物質を定量する方法が、なかなか見つけられないとのこと。


ここは、入ってきたばかりだが、LC-MS/MSの権威で分析屋さんのるみ子の酒にもプロジェクトチームに入ってもらおう。

治験に使うだけなら、それほど重要なステップではなかったが、生産スケールをアップした時に、どうしても必要な工程内管理らしい。

分析方法のバリデーションも含めて、引き続き十条、ヨネヤマ、ちゃちゃたちに検討をお願いした。

7月には製品標準書や品質管理手順書が欲しいところだ。



ヘンリー川崎は夕べ書き終えたSDVマニュアルとチェックリストを統計解析部門のポチリンに回し、SDV方法とチェック内容を統計解析・DMの立場から検討してもらうことにした。

また、同時に、重篤な有害事象が発生してしまった場合の、情報の社内ルートもMTに確認してもらった。

カッコ亀井には「HORAI-E±2004Z」(高血圧の治験薬)をモニターが医局等でプレゼンするために必要な研修方法を依頼した。


でもって、このクソ忙しい最中、デーモン山田は行方不明中。。。

こうなったら、フロリスに頼んで人材募集をかけてもらおう。

クロース三太も12月まで暇そうだし。


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posted by ホーライ at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 治験に関連する仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする