総合機構の担当官「この被験者識別コード303−1の方の同意書ですが・・・・」
★治験責任医師「はい、なんでしょう?」
総合機構の担当官「同意書に名前が自書されていますよね。」
★治験責任医師「はい。それで?」
総合機構の担当官「その字体と同意書の日付の字体が違うのですが、どういうことでしょ?」
★治験責任医師「は? あれ? そうですか?・・・・・・本当だ。」
総合機構の担当官「気づきませんでしたか?」
★治験責任医師「今、指摘されて初めて気づきました。確かに字体が違いますね。」
総合機構の担当官「この日付は誰が書いたものですか?」
★治験責任医師「はて。・・・・・・誰でしょう?」
総合機構の担当官「誰かが代筆したということでしょうか?」
★治験責任医師「それは分かりません。」
総合機構の担当官「それと、この被験者識別コード303−1の方ですが、カルテを見ますと「視覚障害あり」となっていますが、同意説明文書はご本人が読めたのですか?」
★治験責任医師「そうですね・・・・・・この方は確かに同意説明文書が読めなかったので、私が読んでさしあげた上で、理解してもらいました。」
総合機構の担当官「その時、「公平な立会人」を立ちあわせていましたか?」
★治験責任医師「・・・・・・何ですか、その「公平な立会人」とは?」
総合機構の担当官「GCPの52条を見てください。」
■■■ GCPの第52条 ■■■
(同意文書等への署名等)
第52 条 第50 条第1項又は第2項に規定する同意は、被験者となるべき者が説明文書の内容を十分に理解した上で、当該内容の治験に参加することに同意する旨を記載した文書(以下「同意文書」という。)に、説明を行った治験責任医師等及び被験者となるべき者(第3項に規定する立会人が立ち会う場合にあっては、被験者となるべき者及び立会人。次条において同じ。)が日付を記載して、これに記名なつ印し、又は署名しなければ、効力を生じない。
2 第50 条第1項又は第2項に規定する同意は、治験責任医師等に強制され、又はその判断に不当な影響を及ぼされたものであってはならない。
3 説明文書を読むことができない被験者となるべき者(第50条第2項に規定する被験者となるべき者を除く。)に対する同条第1項に規定する説明及び同意は、立会人を立ち会わせた上で、しなければならない。
4 前項の立会人は、治験責任医師等及び治験協力者であってはならない。
■■■■■■■■■
★治験責任医師「確かに、書いてありますね。」
総合機構の担当官「モニターから説明を受けていませんでしたか?」
★治験責任医師「さー、あったような、ないような。」
総合機構の担当官「そうですか。この件に関しては治験依頼者にも確認させて頂きます。」
★治験責任医師「はい。」
次の日、実地調査のために治験依頼者の会社に総合機構の担当官がやって来て・・・・・・・
総合機構の担当官「山田クリニックでの実地調査で判明したのですが、被験者識別コード303−1の方の件です。」
ホーライ「はい。」(山田クリニックでの昨日の一件については、既に情報は入手している。)
総合機構の担当官「この方の同意書は確認しましたか?」
ホーライ「はい。弊社の田中がSDVを実施しています。」
総合機構の担当官「いつですか?」
ホーライ「2011年の6月1日です。」
総合機構の担当官「その時の記録を見せて頂けますか?」
ホーライ「はい。これが、その時のモニタリング報告書で、こちらがSDV記録です。」
総合機構の担当官「被験者識別コード303−1の方の同意書の日付と署名の字体が違っていたのですが、それは把握していましたか?」
ホーライ「いえ。SDV記録のチェックリストで同意日のチェックをしていますが、同意の日にちと治験の開始の関係はチェックしていましたが、字体まではチェックしていなかったようです。」
総合機構の担当官「治験責任医師にも確認したのですが、日付は誰が書いたか不明だということでしたが、こちらではどのように把握していますか?」
ホーライ「いえ。全く、把握しておりません。」
総合機構の担当官「なるほど。」
ホーライ「どうやらモニターは同意書に日付があれば、それで安心してしまい、字体までチェックはしていなかったようです。」
総合機構の担当官「それとですね、この被験者識別コード303−1の方は視覚障害を持っていられて、同意書を読めなかったと治験責任医師は言っていますが、この件については把握していましたか?」
ホーライ「はい。SDV記録とCRFの合併症に視覚障害と記載されていますので、モニターは把握していました。」
総合機構の担当官「ところがですね、ご存知のように同意説明文書を被験者が読めない時は、公正な立会人が必要ですよね。」
ホーライ「はい。そうですね。」
総合機構の担当官「この被験者識別コード303−1の場合、公正な立会人はいましたか?」
ホーライ「はい。チェックリストを見ると公正な立会人がいた、ということになっています。」
総合機構の担当官「変ですね。治験責任医師はいなかったと言っていますが。」
ホーライ「そうですね。」
総合機構の担当官「もし、公正な立会人がいたとして、その方の同意書へのサインは確認されていましたか?」
ホーライ「いえ。それはチェックしていなかったようです。」
総合機構の担当官「ですよね。私どもが昨日、確認したところでは、同意書に公正な立会人の署名はありませんでした。」
ホーライ「はい。」
総合機構の担当官「同意説明文書を被験者が読めない場合、公正な立会人が必要であることを治験責任医師に説明していましたか?」
ホーライ「はい。」
総合機構の担当官「では、その時の記録を見せてください。」
ホーライ「はい、これがその時のモニタリング報告書です。」
総合機構の担当官「・・・・・・なるほど、説明した旨の記録がありますね。このモニタリング報告書の写しをもらいたいのですが。」
ホーライ「はい。今、コピーしてきます。」
総合機構の担当官「この件につきましては、機構に戻り次第、こちらでも検討させて頂きます。」
ホーライ「はい。承知致しました。」
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上記の「被験者識別コード303−1」については、後日、総合機構から正式に書面で処分が報告された。
その結果、本件はGCP違反となり、解析のデータから削除するよう求められた。(有効性からも、安全性からも。)
また、モニタリングで本件がチェックされなかったことを受けて、改善事項を提出するよう求められた。
なお、同意書に記載されていた日付の字体の違いについてはモニターも監査も気づいていなかった。
その後、ホーライ製薬のモニターは、治験依頼者として、今後のSDVでは必ず同意書の字体についても確認することとした。
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ところで、私(ホーライ)がフランス系の製薬会社で監査を担当していたときに、フランスの監査担当者から聞いた事例として次のようなものがある。
●ある病院で8人の患者が登録された。
ところが、その8人の同意書の字体が全て同じだった。(誰の字体か、までは判明しなかったが、それが分かったところで、打つ手は無かった。)
●ある病院の患者の臨床検査値が別の患者と全く同一だった。これは医師が架空の患者をでっちあげていた。
どうやらお金、欲しさにやったらしい。
本当に気をつけようね。
あ!あとね、総合機構の実地調査にCRCの方も同席してもらうよう、事前にお願いされるといいですよ。
治験依頼者は是非、CRCにお願いしましょう。
でないと、治験責任医師がどんなことを言うか、分からないからですね。
ただし、治験の詳細を把握しているCRCの方に同席してもらいます。
総合機構の担当官から治験責任医師に質問がきて、それに対して治験責任医師が訳の分からないことを言い出すと、ドツボにはまります。
そんな時に機転のきくCRCの方が同席していると、適切な回答をしてくださいます。
●週刊「モニターとCRCのためのGCPメルマガ」
●日刊「モニターとCRCのためのGCPメルマガ」
●医薬品ができるまで(治験に関する話題)
●ホーライ製薬・・・架空の製薬会社の日常
●「モニター治験情報ネット(携帯版)」