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●2014年の西アフリカエボラ大流行
2014年の西アフリカエボラ大流行は、2013年12月から、ギニアをはじめとする西アフリカにてエボラ出血熱が流行している事象で、2014年8月18日までの世界保健機関(WHO)のまとめでは、感染疑い例も含め2473名が感染し、1350名が死亡(死亡率55%)した。
この対策に、WHO、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)、欧州委員会、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、国境なき医師団、平和部隊、赤十字社などが乗り出し、各種基金や人的支援を行っている。
流行は森林隣接地帯が中心であり、この地域の葬儀で死者に触れる習慣が流行を加速させていると国連代理人は述べている。
また、コウモリやサルなどの野生動物を食べる習慣がリスクを高めているとの推測もある。
患者は急増し、米国人の感染・死亡と同国医療従事者の感染があり、米途上国支援団体の平和部隊はボランティアの撤退を決め、CDCが渡航自粛勧告を行った。
2014年8月8日、WHOは、西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると宣言した。
感染者数、死亡者数ともに過去最悪に達し、西アフリカでの初めての流行、史上初めての首都での流行となった。
●エボラ出血熱の流行の始まり
流行は、2013年12月にギニアで始まった。
最初の感染者はゲケドゥに在住していた2歳の男児(12月6日に死亡)だとみられている。
すぐに母親、姉(3歳)と祖母が死亡したが、誰もエボラだとは考えなかった。
感染源としてはウイルスに汚染された果物を食べたり、汚染された針で注射されたこと、野生のコウモリとの接触の可能性などが疑われるが明確な原因は不明である。
またこの男児を含め、最初期の感染者の疑いがあるとされている人の居住県として、コナクリ(4名)、ゲケドゥ(4名)、マセンタ(英語版)(1名)、ダボラ(英語版)(1名)が挙げられている。
ギニア保健省は3月20日に、2月9日に初の発症例が確認された正体不明の病気が36人で確認され、うち少なくとも23人が死亡したと発表した。
その症状には発熱、下痢、嘔吐が含まれ、一部の患者には出血もみられると報告されており、ラッサ熱・黄熱・エボラ出血熱の症状に似ていた。
国際的な報道は3月19日であった。
3月22日にギニア政府は、フランスのリヨンにある研究所から病気がエボラ出血熱であるとの報告を受け、その時点での感染被疑者は80人、死亡者は59人だと発表した。
ギニア保健省からの通告に基づき、WHOは3月23日に第1報を出した。
ギニア保健省の3月25日の報告では、ギニア南東部のゲケドゥ、マセンタ、ンゼレコレ、キシドゥグ(英語版)での発生が伝えられている。
その翌日、フランスリヨンのパスツール研究所は、それがザイール株であると発表した。
ただし、その後の全遺伝子解析によって、それが新株であることが明らかになっている。
ギニアの首都コナクリでも感染が見つかった。
NGOプラン・ギニアのイブラヒマ・トゥーレは「コナクリの大部分の人々は貧しく、水と公衆衛生が不足しているため、流行が急速に拡大する危険がある。水が不足しているため、手も洗えません」と述べている。
また、西アフリカには葬儀で遺体に触れて哀悼するという習慣があり、これがエボラ流行の原因の一つになっているという指摘もある。
●エボラ出血熱の初期の対策
ギニア、シエラレオネ、リベリア各国の当局は、国家非常事態委員会を立ち上げ、エボラ対策計画を実行した。
また、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は3月末、国際的支援が必要との声明を発表した。
第44回西アフリカ政府長官会議期間中の3月30日、ECOWASは2万5千USドルの支援を発表。
シエラレオネ当局は、ギニアおよびリベリアからの入国者に対し、厳しい健康チェックを行う規定を発表した。
欧州委員会 (EC) は、ギニアとその近隣諸国での流行を抑えるため、50万ユーロを供出した。
ECは、状況評価と地方への情報伝達のため、ギニアに専門家も派遣している。
EU委員で国際協力・人道援助・危機対応担当のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ(英語版)は3月28日のプレスリリースで「我々はこの悪性の病気の蔓延に強い関心を持っており、我々の支援は保健対策に即時かつ効果的となるだろう。近隣諸国に流行が広がるのを抑えるためには、我々の素早い対応が不可欠である」と述べている。
ギニアの北隣セネガルの内務省は3月末、ギニア国境からの入国を無期限停止にした。
さらに2014年3月26日、モーリタニアは、セネガル川の上流にギニアがあるため、セネガル川からの入国口をロッソとディアマの2か所に制限した。
3月31日、アメリカ疾病予防管理センターは、ギニア保健省とWHOのサポートとして、5名のチームを派遣している。
2014年4月1日、サウジアラビアは、ギニアとリベリアからのメッカ巡礼を理由としたビザの交付を停止した。
さらに、モロッコは、西アフリカのハブ空港であるムハンマド5世国際空港の医学チェックを強化した。
これとは対照的に、ギニアとリベリアの国境は大きな対応はなされなかった。
リベリアのモンロビアに駐在しているギニアの大使は、国境の封鎖ではなく直接病気と闘う努力が効果的だと主張した。
EUが資金提供しているヨーロッパモバイル研究所(European Mobile Laboratory)は、WHO/地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)の流行対策の一環として、リスクグループ4の病原体を取り扱える移動実験室を派遣した。
この移動実験室が採取した患者20名の血液サンプルからウイルスRNAを抽出、配列決定し、2007年にコンゴ民主共和国で発見されたウイルスと97%一致することが確認され、4月16日に発表された。
4月23日の時点で感染者数242、その内の死者142であり、致命率は58.7%となった。
8月8日、世界保健機関(WHO)は専門家による緊急の委員会を開いた上で、西アフリカにおけるエボラ拡大を、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であることを宣言した。
ナイジェリアのグッドラック・ジョナサン大統領は、国内でエボラ感染が続発している事態を受け、国家非常事態宣言をおこなった。
8月13日、ギニアのアルファ・コンデ大統領は公衆衛生上の非常事態宣言をおこなった。
8月15日、国境なき医師団は「(エボラ出血熱は)私たちが対応しきれないほどの速さで悪化し拡大している」と発表。
その声明に先立って、WHOはエボラの流行規模がこれまで「大幅に」過小評価されてきており、拡大防止のためには「異例の措置」を講じる必要がある、との見解を表明していた。
8月16日に首都モンロビアにおいてエボラ出血熱の患者が隔離されている施設がスラム街の若者数百人により襲撃され、患者17人が隔離施設から逃走したが、19日に全員の消息が判明し、別の治療施設に移送されたことが発表された。
この事件の他にもエボラ出血熱に感染した患者が、自分に感染することを恐れた他の住人に放置されるといった状況が生じている。
8月19日、リベリア政府はエボラ出血熱の拡大を防ぐため、夜間の外出禁止と首都モンロビアの1地区を含む2地域を隔離下とすることを発表した。
●西アフリカ諸国での問題意識
エボラ感染西アフリカ4か国では、エボラが公衆衛生上の大問題ではないとされ、この認識が対策が後手に回る原因となっている。
1日あたりの死者数は4カ国合計で、エボラ4人、ラッサ熱14人、結核114人、下痢404人、マラリア502人、HIV/エイズ685人であり、人材・資金・設備に乏しいのでエボラ出血熱への対策に資源を投入できていない。
特にエボラは空気感染しないため、対策の必要性が意識されにくい。
また対策が進んでいないのはエボラ出血熱の症状を見分けることが難しいことも一因となっている。
国民も政府の対策に従わない傾向があり、その理由について外交問題評議会のシニア・フェローのローリー・ギャレットは、「この地域には内戦、政府による搾取、テロが長い間続いており、それによって生まれた恐怖、貧困、猜疑心などがある。エボラは耐え難い騒音に付け加えられた一つのざわめきに過ぎない」と述べている。
●アメリカの対応
7月31日、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、ギニア、リベリア、シエラレオネへの不要不急な旅行を控えるように警告した。
キリスト教救援団体サマリタンズパースのモンロビアの治療センターの医療局長として活動中であった医師、ケント・ブラントリーとその同僚1人が同時に感染し、エモリー大学病院(英語版)へと運ばれた。
2014年8月6日、CDCは、流行への対応を強化するため、対応を6段階のスケールの中で最高レベルであるレベル1に変更した。
米国の保健当局は、エボラのアメリカへの広がりは避けられないと警告している。
米国務省は次の地域に勧告を出した。
8月8日、リベリア。渡航自粛勧告と大使館員家族の退避命令(館員は残る)。
8月8日、ナイジェリア北部の一部地域。強い渡航自粛勧告。ただし理由は地域の不安定さ。
8月14日、シエラレオネ。渡航自粛勧告と大使館員家族の退避命令(館員は残る)。
●EUの対応
3月、欧州委員会(EC)はギニア国内及び近隣国でのエボラ感染拡大防止のために50万ユーロの資金提供を行った。
またこの他にも現状の把握および現地医師との連絡を目的として、ギニアに専門家も派遣した。
欧州委員会の国際協力・人道援助・危機対応担当であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァ(英語版)は「私達はエボラ出血熱の感染拡大について非常に憂慮しており、私達の支援がエボラ感染者への早急な健康支援につながるだろう。
私達が感染拡大、特に近隣国へのアウトブレイクを防ぐために迅速に行動することが重要である」と述べている。
4月には、リスクグループ3から4のウイルス病原体を扱うことが可能である移動実験室が、WHO/GOARNアウトブレイク対処の一環として欧州移動実験計画(EMLab)によりギニアに派遣された。
初めのほうに得られたサンプルはリヨンのジャン・メリューP4高度安全実験室において分析された。
ドイツの外務省は7月末に影響を受けているすべての国への渡航警告を出した。
8月2日、スペインも同様に渡航警告を発令した。
●日本の対応
2014年FORTH(厚生労働省検疫所)は、WHOアフリカ地域事務局の情報を元に「2014年03月24日更新 ギニアでエボラ出血熱が発生しています」という情報を出した。
また、成田空港などではパンフレットを置き、サーモグラフィーで入国者の検査をしている。
4月、外務省はギニアでの対策として国際連合児童基金(UNICEF)を介して約52万ドルの緊急無償資金協力を行った。
8月7日、厚生労働省は全国に、疑い患者の発生時の対応について再確認するように求めた。
8月8日、外務省は、ギニア、リベリア、シエラレオネに対し「渡航延期勧告」と「退避検討勧告」を出した。
渡航延期勧告と退避検討勧告は、3カ国の全域に対して出されている。
同時点の外務省の発表によれば、 WHOによれば、ギニアでは8月4日現在、495人が感染、うち363人が死亡。
首都コナクリ、ボッファ県、テリメレ県、ダボラ県、クルーサ県、キシドゥグ県ではエボラ出血熱が確認されており、フリア県、デブレカ県では疑い例が報告されている。
リベリアでは8月4日現在、516人が感染し、うち282人が死亡。
ボミ県、ボン県、ロファ県、マルギビ県、モンテセラード県(首都モンロビア所在)及びニンバ県で感染者が確認されており、首都モンロビアにEVLA病院及びJFK病院、ロファ県にフォヤ・ボーマ病院、ボン県にエボラ出血熱治療ユニットが設置されており、エボラ出血熱患者が収容されている。
シエラレオネでは8月4日現在、691人が感染、うち286人が死亡している。
5月以降、カイラフン県、カンビア県、ボートロコ県、ケネマ県、ボ県および西県(首都フリータウンを含む)で感染者が確認されている。
カイラフン県とケネマ県にエボラ出血治療センター(EOC)として隔離病棟が設置されており、エボラ出血熱患者が収容されている。
8月11日、JICAは3カ国駐在の20人を隣接国に一時的に撤退させる。
8月11日、厚生労働省は、「エボラ出血熱に関するQ&A」という情報を公開、エボラ出血熱に関する基本的な知識や、流行の状況、日本の水際対策について説明している。
8月15日、日本政府はWHOなどの3機関を介し、医薬品の供給や感染予防に充てるための150万ドルの無償資金協力を決定した。
●現在エボラ出血熱に対する効果的な治療薬、ワクチンはともにない。
2014年8月6日、中央アフリカで感染が拡大しているエボラ出血熱の医療チームで感染した米国人2人に対して投与された実験用の抗体治療剤「ZMapp」の効果があったことから、この未承認薬のエボラ出血熱患者への投与承認を求める申請がWHOになされた。
2014年8月7日、アメリカ国防総省当局者は富士フイルムホールディングスの傘下企業富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬『ファビピラビル』を、富士フイルムの米国での提携相手であるメディベクターがエボラ出血熱感染者の治療に使えるよう申請する意向で、FDAと協議していると述べた。
承認されれば、エボラ出血熱の感染者治療で米当局が承認する初の医薬品の一つとなる見通し。
2014年8月7日、新薬「TKMエボラ」を開発しているカナダのテクミラ・ファーマシューティカルズ社が、臨床試験を差し止めていたFDAの措置が変更され、患者への部分的な利用が可能になったと発表。
2014年8月12日、WHO専門家委員会は、西アフリカで感染が拡大するエボラ出血熱をめぐり、開発段階の治療薬やワクチンを使用することの是非について議論した結果、使用は倫理的との認識で一致した。
ナイジェリアのチュクウ保健相は14日、同国最大の都市ラゴスにいるエボラ出血熱患者に対して「ナノシルバー」と呼ばれる治験薬を使った治療を行うと述べた。
西アフリカの数カ国で発生しているエボラ出血熱に新たな治験薬が使われることになる。
チュクウ保健相は、この薬がナイジェリアの科学者から届くとしながらも、その名前は明らかにしなかった。
薬は現在ラゴスに向かっており、陽性反応が出たナイジェリア人8人に投与されるという。
カナダのバイオ医薬品会社テクミラ・ファーマシューティカルズは13日、西アフリカでの大量感染に対処するため、開発中のエボラ出血熱の治験薬「TKMエボラ」を使用する方法を検討していると発表した。
この治験薬は開発中で、規制当局から正式に承認されていない。
TKMエボラは米国防総省との契約で開発されており、ウイルスと闘う「RNA(リボ核酸)干渉」という技術を駆使した治療薬候補だ。