2014年08月26日

エボラ出血熱の概要

今週は「エボラ出血熱」と「ALSという病気」(アイス・バケツ・チャレンジ)について見ていきます。

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●エボラ出血熱

エボラ出血熱(エボラしゅっけつねつ Ebola hemorrhagic fever、または エボラウイルス病 Ebola virus disease - EVD[1])は、フィロウイルス科エボラウイルス属のウイルスを病原体とする急性ウイルス性感染症。

出血熱の一つ。「エボラ」の名は発病者の出た地域に流れるエボラ川の名を取って命名された。

ヒトにも感染し、50-80%という死亡率を持つ種類も存在する。人類が発見したウイルスの内で最も危険なウイルスの1つである。




●エボラ出血熱の概要

エボラウイルスは大きさが80 - 800nmの細長いRNAウイルスであり、ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず多種多様である。

初めてこのウイルスが発見されたのは1976年6月。

スーダン(現:南スーダン)のヌザラ (Nzara) という町で、倉庫番を仕事にしている男性が急に39度の高熱と頭や腹部の痛みを感じて入院、その後消化器や鼻から激しく出血して死亡した。

その後、その男性の近くにいた2人も同様に発症して、それを発端に血液や医療器具を通して感染が広がった。

最終的にヌザラでの被害は、感染者数284人、死亡者数151人と言うものだった。


そして、この最初の男性の出身地付近である、当時のザイールのエボラ川からこのウイルスの名前はエボラウイルスと名づけられ、病気もエボラ出血熱と名づけられた。

その後エボラ出血熱はアフリカ大陸で10回、突発的に発生・流行し、感染したときの致死率は50 - 90%と非常に高い。



体細胞の構成要素であるタンパク質を分解することでほぼ最悪と言える毒性を発揮する。

カナダ保健省のサイトでは体内に数個のエボラウィルスエアロゾルが侵入しただけでも発症するとしているが、その根拠とする文献では、エボラウイルスの感染法について明確な記述はない。

そのため、エボラウィルスはWHOのリスクグループ4の病原体に指定されており、バイオセーフティーレベルは最高度の4が要求される。



「エボラ出血熱」の恐怖が知られるようになってから30年以上が経つが、これまでの死者数は1,590人(2012年12月現在)で、これは今日でも年間10万〜数10万人の死者を出しているマラリアやコレラと比較しても格段に少ない。

症状の激しさや致死率の高さの一方で、「空気感染はせず、他人に感染する前に感染者が死に至るため、蔓延しにくい」という側面もあり、その恐怖は映画や小説で描かれたイメージや、「致死率90%」という数字により誇張されているとの指摘もある。

現時点で決定的証拠は無く、関与の程度も不明なものの、ヒトの間で空気感染する可能性は強く疑われている。



●エボラ出血熱の原因

アフリカ中央部(スーダン、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、ガボン、ウガンダ)、 西アフリカ(コートジボワール(アイボリコースト、象牙海岸。輸入1例)、ギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリア)、南アフリカ(ガボンからの輸入1例)で発症している。

またフィリピンでは、感染したカニクイザルと豚が見つかっている(サルはアメリカとイタリアに輸出され、ウイルスが発見された。)。



自然宿主の特定には至ってはいないが、コウモリが有力とされている。

サルからの感染例はあるが、キャリアではなくヒトと同じ終末宿主である。

また、現地ではサルの燻製を食する習慣があるため、これを原因とする噂がある事も報道に見える。



2005年12月1日付の英科学誌『ネイチャー』にて、ガボンのフランスビル国際医学研究センターなどのチームの調査によると、 オオコウモリ科のウマヅラコウモリ、フランケオナシケンショウコウモリ、コクビワフルーツコウモリ等が、エボラウイルスの自然宿主とされ、現地の食用コウモリからの感染が研究論文で発表されている。



患者の血液、分泌物、排泄物や唾液などの飛沫が感染源となる。

死亡した患者からも感染する。



エボラウイルスの感染力は強いものの基本的に空気感染をせず、感染者の体液や血液に触れなければ感染しないと考えられている。

これまでに見られた感染拡大も、死亡した患者の会葬の際や医療器具の不足(注射器や手袋など)により、患者の血液や体液に触れたことによりもたらされたものが多く、空気感染は基本的にない。

患者の隔離に関する措置が十分に行われていれば、感染することはない。



エンベロープを持つウイルスなので、アルコール消毒や石けんによる消毒が容易であり、大きな変異がない限り先進国での大きな流行の可能性は低いと考えられている。

なお、レストンでのサルの商業輸入に際して顕在化し、その感染流行により特定されたサルを終末宿主とする「エボラ・レストン株」(現状ではヒトに対する病原性はない)は、空気感染の可能性を濃厚に具現する例として知られているものの、エボラ出血熱の人体間における空気感染の可能性について確定的に定義付けるものとは言えない。

なお、今日の航空機においては、仮に幾許かの空気感染が起こりうるとしても、飛行中には適切な換気が行われているため、感染者より2列以外は「密接な接触」とならないとされている。


何故防護服を着た医療従事者に感染するのか、原因は解明されていない。

しかし、マラリア原虫を媒介するハマダラカが、吸血したての人の新鮮血を媒介しているという学説が浮上している。

吸血後、何時間以内に刺咬されたら感染する確率があるのか、研究成果が待たれている。





●エボラ出血熱の症状と治療

潜伏期間は通常7日程度(最短2日、最長3週間)。

WHOおよびCDCの発表によると、潜伏期間中は感染力はなく発病後に感染力が発現する。

発病は突発的で、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、食欲不振などから、嘔吐、下痢、腹痛などを呈する。

進行すると口腔、歯肉、結膜、鼻腔、皮膚、消化管など全身に出血、吐血、下血がみられ、死亡する。

致死率は50 - 90%と非常に高い。



エボラ出血熱ウイルスに対するワクチン、ならびに、エボラ出血熱感染症に対して有効かつ直接的な治療法は、現在に至るまで確立されていない。

現在は、脱水に対する点滴や、鎮痛剤及びビタミン剤の投与、播種性血管内凝固症候群(DIC)に対する抗凝固薬等の投与が行われている。


・実験動物に対しては東京大学医科学研究所教授(ウイルス学)の河岡義裕は、エボラ出血熱ウイルスのワクチンをマウスに接種したところ、一定の効果を確認したことを米専門誌ジャーナル・オブ・バイロロジー電子版で発表した。

この実験では、ワクチンを接種せずに感染させたマウス10匹は6日後に全て死亡したが、接種した15匹は、健康な3匹のマウスと同じように2週間以上生き続けたという。

河岡は今後、サルで実験し、早期実用化を目指したいとしている。



・2010年5月29日、ボストン大学のウイルス学者トーマス・ガイスバートをはじめとした研究チームが、エボラウイルスの中でヒトに対する病原性が最も強いザイール型のエボラウイルスに感染させた中国のアカゲザルの治療に成功したと「The Lancet」誌上で発表した。

人工的に生成した低分子干渉RNA (siRNA) を基に作られた薬剤を副作用が出ないよう脂肪分子で包み、感染した細胞に直接届けることで、ウイルスの自己複製を促進するLタンパクを阻害する仕組み。

実験に使用したサルは9匹のうち7匹は6日間にわたって同じ量の薬剤の投与を受け、7匹中3匹は1日おき、4匹は毎日薬剤を摂取した。

それぞれのグループで1匹ずつは対照群として薬剤を投与されなかった。

薬剤を投与されたサルを分析した結果、エボラウイルスに感染して10日後、1日おきに投与されたサルの血中のウイルス濃度は非常に低かった。

また、毎日投与されたグループからはウイルスがまったく検知されなかった。

このsiRNA剤は特定の型のエボラウイルスに合わせて短時間で人工的に生成することが可能なため、新しい型のエボラウイルスが現れたとしても、すぐに対応できるという。




・2014年8月6日、中央アフリカで大流行しているエボラ出血熱の医療チームで感染した米国人2人に対して投与された実験用の抗体治療剤「ZMapp」の効果があったことから、この未承認薬のエボラ出血熱患者への投与承認を求める申請がWHOになされた。

薬の効果・副作用より(供給が不足する中で)「誰に投与すべきか」という倫理上の問題があったが、WHO特別委員会で暫定的に承認された。

なお、前述の米国人医師への使用で効果があったという報道については、投与と効果の因果関係がはっきりと示されておらず、仮に効果があったとしても、副作用を含めた安全性についてはまだ確証が得られていない。

米国では他にも、TekmiraとBiocryst Pharmaceuticalsの2社が政府の援助を得て新薬を開発中である。




・富士フイルムホールディングスの傘下企業富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬『ファビピラビル(Favipiravir)』はウイルスのRNAポリメラーゼの阻害薬で、疫病のマウスモデルにおいてエボラウイルスを排除する効果が確認されている。

富士フイルムの米国での提携相手であるメディベクターがエボラ出血熱感染者の治療に使えるよう申請する意向で、FDAと協議している。

承認されれば、エボラ出血熱の感染者治療で米当局が承認する初の医薬品の一つとなる見通し。




・不妊症及び乳癌の治療に用いられるエストロゲン受容体遮断薬(クロミフェンとトレミフェン)は、感染したマウスでエボラウィルスの進行を抑制する。

クロミフェンで治療されマウスの90%及びトレミフェンで治療されたマウスの50%が、テストを生き残った。

経口で利用可能であり、人的利用の歴史のあるこれらの薬は、単体で使うにせよ、他の抗ウィルス薬と合わせて使うにせよ、遠い地理的位置においてエボラウィルス感染を治療するのための候補であろう。



・WHOのキーニー事務局長補は2014年8月12日の記者会見で、2種類のワクチンが臨床試験直前の段階にあると述べた。

・カナダ保健省は約1500回分のワクチンを保有する。そのうち1000回分程度を供給する用意があると述べた。




●エボラ出血熱の生態への影響・流行

2002年4月、世界保健機関 (WHO) は、ガボン北部に生息するニシローランドゴリラの死体からウイルスを発見した。

エボラ出血熱の流行地帯に暮らす人々は、ゴリラやチンパンジーなどの野生生物を食用とする習慣があり、また実際に発症した人の中には、発症する直前に森林で野生動物の死体に触れたと証言した者もいることから、ゴリラやチンパンジーも感染ルートの一つとなった可能性がある。

翌年、隣国のコンゴ共和国でエボラ出血熱が発生した際には、人間への感染と同時にゴリラにも多数の感染例が報告され、2002年から2005年の間に約5,500匹ものゴリラが死亡したと報告した。

2007年9月12日に発表されたIUCNレッドリストでは、エボラ出血熱による激減および密猟のため、ニシローランドゴリラは最も絶滅危険度の高い Critically Endangered(絶滅寸前)に分類されている。



チンパンジーにいたっては100年前には約200万匹いたと推定されるが。商業目的で密猟や食料にされたり、エボラ出血熱の流行で、現在は約20万匹と推定され、「絶滅のおそれのある種のレッドリスト」に、絶滅危惧IB類として分類されている。



なお、人以外のゴリラやチンパンジー等の霊長類が人への感染源になっているが、ウイルスの保有宿主ではなく、人間と同様に偶発的に終末宿主になったと考えられている。



フィリピンでは2007年から2008年にかけて、マニラ北部の養豚場など数箇所でブタが相次いで死亡した。

アメリカの研究機関が調べたところ、レストン株のエボラウイルスに感染していることが確認された。

家畜へのエボラウイルス感染が確認されたのは世界で初めてである。

その後、1989年、1990年、1992年、1996年にフィリピンからエボラ・レストンに感染したサルが輸出されていたことが明らかになった。



2008年のコンゴ民主共和国での流行では、32人が感染し14人が死亡した(死亡率44%)。

2011年から2012年にかけてウガンダで流行し32人が感染し22人の死亡が報告された。



2014年2月からギニア、シエラレオネおよびリベリアにおいて、エボラ・ザイールが流行し、4月9日現在の確認死亡者は101人で、4月9日現在の感染者は157人である。

WHO、国境なき医師団などが緊急援助を行っている。

4月24日現在の確認死亡者は142人、死亡者を含む感染者は242人である。

4月下旬には収まったように見えたが、5月に入ってから流行は急拡大し、7月、WHOは2月からの死亡者が518人に、死亡者を含む感染者は844人に拡大したと報告した(ともに疑い例を含む)。

これは過去の最大年間死亡者数を上回る規模のものとなった。


2014年8月4日現在(8月6日発表)4カ国合計で感染者1711名、死亡者932名となり現地の状況から考えてさらに拡大する可能性が高いので、WHOは8月8日に「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」(PHEIC(英語版))を宣言、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は最高度の緊急体制に入った。

2014年8月13日現在(8月15日発表)4カ国合計で感染者2127名、死亡者1145名となった。

posted by ホーライ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 難病に対する治験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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