2014年03月20日

動物実験の限界

今週は「ヒト初回投与試験の安全性を確保する方法」を見ます。
 
「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」について
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http://www.pmda.go.jp/kijunsakusei/file/guideline/new_drug_non-clinical/T120406I0010.pdf

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動物実験には限界があることも指摘しています(私たちはこの点、油断することがあるので、これを忘れないように!)。
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3.3 非臨床試験

3.3.1 動物モデルの妥当性の確認

被験薬に対するヒトと動物の生物学的反応は,質的又は量的に異なる場合がある.

一般的に,動物モデルを用いた試験は,以下に示す点でヒトでの安全性又は有効性を十分に評価できないことを理解することが重要である.

種特異性の高い被験薬で動物を用いた非臨床試験を行う場合には,被験薬に対する作用機序及び標的(作用部位)の特性を踏まえ,被験薬に対するヒトと動物の生物学的反応ができるだけ近いと考えられる適切な動物モデルで実施することが必要である.

@ ヒトで意図する薬理作用が動物で発現されるとは限らないこと

A 薬物動態学(PK)と薬力学(PD)的結果の関係についての適切な評価が行われない可能性があること

B ヒトでの毒性学的影響を適切に予測できない可能性があること

C 生物薬品の場合,ヒト内因性物質との類似性により抗体が生成したときの被験者へのリスクが異なるが,動物モデルでは必ずしも適切な評価ができないこと



動物モデルの妥当性を示す際には,以下について検討すべきである.

@ 標的分子の発現,組織分布及び一次構造

ただし,ヒトと動物との間で標的分子に高い相同性が見られる場合でも,同等の薬理作用を示すとは限らない.

A ヒト及び動物試料(ヒト型試験系も含む)を用いた交差反応性(例えばモノクローナル抗体等)

B 薬力学的側面

・ 受容体/標的への結合親和性及び占有率,並びに薬理学的活性

・ 必要且つ可能ならば、付加的機能ドメインの活性に関する動物データ(例えばモノクローナル抗体に対するFc受容体系) Fc受容体:免疫グロブリン(抗体)分子のFc部位に対する受容体である.

C 代謝及びその他の薬物動態学(PK)的側面

動物モデルの選択については,選択理由を明確にする.

妥当な動物種が存在しない場合は,相同タンパク質又はヒト型標的分子を発現している遺伝子改変動物の利用が考えられる.

相同タンパク質と標的との相互作用により,ヒトで予測される被験薬の生物学的活性が惹起される場合には,ヒトでのリスク評価に有益である.

また,ヒト細胞等を用いたin vitro試験により,適切な追加情報を得られる場合がある.

被験薬の非臨床安全性評価においては,使用する全ての動物モデルの妥当性と被験薬の評価における限界について慎重に検討すべきである.


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上記では「ヒト細胞等を用いたin vitro試験」も有用であることが記載されていますね。

さて、それでは実際のフェーズ1の臨床試験(特に初回投与)についてはどのような点に注意すればいいのでしょうか。
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3.4 臨床試験

3.4.1 一般的な考え方

ヒト初回投与試験に参加する被験者の安全性は,有害作用発現のリスク要因を特定し,それを計画的に低減することによって高めることができる.

これらのリスク要因を低減するために,試験計画をたてる際は以下について検討すべきである.

@ 被験薬の品質に関わるリスク

A 懸念される毒性

B 適切な動物モデル(非臨床試験)から得られた知見

C 適切な被験者集団(健康人・患者)

D 予想される有害事象/副作用に対する被験者の忍容性

E 被験者の遺伝学的素因により被験薬の反応に差異がでる可能性

F 患者が他の医薬品や医療手段から利益を得られる可能性

G 被験薬の予測される治療濃度域


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大事なことは「有害作用発現のリスク要因を特定し,それを計画的に低減する」です。


このような場合のプロトコルでは何に注意すべきでしょうか。
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3.4.2 治験実施計画書

治験実施計画書は,被験薬ごとに標的分子に関する知見をもとに以下について考察し,被験者の安全性確保に配慮し,その正当性を可能な範囲で示す必要がある.

@ 対象被験者

A 実施施設

B 初回投与量とその設定根拠

C 投与経路及び速度

D 投与期間と観察期間

E 用量群ごとの被験者数

F 同一用量群内の被験者への投与順序及び間隔

G 用量漸増の手法

H 次の用量群への移行基準

I 投与中止基準,休薬基準,再開基準

J G〜Iの判断根拠となる安全性評価手法

K 被験者への投与,用量漸増及び臨床試験の変更又は中止手順及びそれらを決定する体制と責任の所在

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まずは「実施施設」です。

万が一を考えて、緊急事態に対応できる治験実施施設を選ぶ必要があります。

3.4.3 臨床試験の実施施設及び人員

ヒト初回投与試験は,適切な医療施設において,必要な教育と訓練を受け,初期段階の臨床試験(つまり第I相,第U相)を実施するために十分な専門知識と経験を持つ治験担当医師と適切なレベルの訓練を受け経験を持つ医療従事者によって実施されるべきである.

これらの医師や医療従事者は,試験デザインや被験薬,その標的,作用機序及び予想される有害作用について理解していなければならず,臨床薬理学に造詣の深い者を含めるべきである.

臨床試験に従事する医療施設は,緊急事態(心肺停止状態, アナフィラキシー, サイトカイン放出症候群, 意識消失,けいれん, ショック等)に対応可能な設備や医師等を備え,また被験者の移動や治療に関する責任と業務遂行についての手順を定めた救命救急施設(外部を含む)を利用できるようにしておくべきである.




また、「投与速度」も大事です(特に静注の場合)。

ゆっくり投与することで、SAEの発現に対応できます。

3.4.2.c 投与経路と投与速度

ヒトへの初回投与の投与経路及び投与速度の選択は,非臨床データに基づいて正当性を示すべきである.

一般に,静脈内投与の場合には,急速投与より,ゆっくりと点滴投与する方が安全性は高い.この点滴投与により有害作用発現の監視が容易になり,重篤な有害作用発現時には被験薬の投与中止等の対応が可能となる.





さらに、「同一用量群内の被験者への投与順序及び間隔」です。

たとえば、ヒトに対する初回投与の場合、6人のボランティアがいたとします。

このような場合、ひとりに投与したあと、十分に観察し、問題がなければ、次のヒトに投与するようにします。

これにより、重篤な副作用を「最低限」にとどめられます。

もし、6人のボランティアにいっきに投与すると、6人全員に重篤な副作用が発生する可能性があります。

それが、ひとり目に投与したあと、十分観察し、万が一、このひとり目に重篤な副作用が発生した場合、2人目以降の投与を中止するなどの措置が講じられます。


通常,ヒト初回投与試験は,群間用量漸増法で実施されるが、初回投与時には一人の被験者に被験薬を単回投与するように計画することが適切である.

その後の用量群(場合によってはプラセボ数名を含む)においてもリスクを低減するため,例えば,用量を上げるたびにまず1名で安全性を評価してから進めることがより適切である場合もある.

このような場合には,引き続く被験者への投与の前に,被験者に現れた反応及び有害事象を観察し,結果を解釈するための十分な観察期間が必要である.




では、最初に投与する治験薬の量はどのように決めればいいでしょうか?


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3.4.2.b ヒト初回投与量の設定

ヒト初回投与量を慎重に設定することは,被験者の安全性を確保するために重要である.

入手可能な全ての情報を考慮して,初回投与量を設定すべきであるが,どのような情報をどのように利用するかは,ケース・バイ・ケースで判断すべきである.

一般にヒト初回投与量は,最も感度の高い動物種を用いた非臨床毒性試験における無毒性量(NOAEL:No Observed Adverse Effect Level)をもとに,アロメトリック補正,あるいは,薬物動態(PK)情報に基づいてヒト等価用量(HED:Human Equivalent Dose)を算出し,さらに被験薬の特性や臨床試験デザインを踏まえた安全係数を考慮し設定される.

また,例えば癌患者における従来の細胞毒性を有する被験薬のような場合では,その他の手法も考慮される。

特定のリスク要因(3.1)に影響される被験薬については,さらに付加的手法を用いて用量を設定すべきであり,薬力学(PD)に関する情報が有用な場合がある.

つまり,MABELを用いて初回投与量を設定する場合には,ヒトと動物との間で被験薬に対する生物学的活性に差異がないか検討し,以下に示す情報を含めin vitro及びin vivo試験から得られた薬物動態(PK)/薬力学(PD)に関する全ての情報(例えば薬物動態(PK)/薬力学(PD)モデルも含む)を利用すべきである.

@ ヒト及び適切な動物種由来の標的細胞を用いた受容体/標的への結合親和性及び占有率についての試験

A ヒト及び適切な動物種由来の標的細胞を用いた用量−反応曲線

B 適切な動物種を用いた薬理学的用量における推定曝露量

ヒトにおける有害作用の発現を回避するために,安全係数を適用して,MABELから初回投与量を設定する場合には,被験薬の新規性,生物学的活性,作用機序,被験薬の種特異性,用量作用曲線の型等を踏まえ,適切な安全係数を設定すべきである.

ヒトへの初回投与量を設定する上で,NOAEL,MABEL等の設定根拠の違いにより異なる値が得られた場合は,科学的根拠に基づいて初回投与量を決定する.


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上記に「NOAEL」や「MABEL」という言葉ありますね。

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NOAELとは最大無毒性量のこと。

複数の用量群を用いた反復投与毒性試験,生殖・発生毒性試験などの動物実験において,毒性学的なすべての有害な影響が認められなかった最高の暴露量のこと.

最大無作用量 (NOEL)と同義語として用いられることもある.

有害な影響の有無の判断は毒性学の専門家に任せられているが,生体組織の基質的変化を伴わない,血清生化学値あるいは器官重量の増減,または,代償的な変化は有害な影響と見なされる.

WHOなどの国際機関や欧米先進国ではNOELよりもNOAELを採用しており,日本でも最近はNOAELが用いられるようになってきた(一般にNOAEL≧NOELの関係にある)。

多くの場合,長期反復投与試験の結果に基づいて,一日許容摂取量 (ADI)を算出するが,NOAELが実験から求められるとは限らないので,このような場合には,推計学的手法を使ってNOAELを求める.

ベンチマークドースという数理モデルで無毒性量を推計し,NOAELと同等に扱うことが生殖発生毒性の分野ですでに行われている.

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MABELとは推定最小薬理作用量のこと

推定最小薬理作用量(MABEL: Minimal Anticipated Biological Effect Level)

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私たちは治験の経験が増えれば増えるほど、治験の危険性に対して「鈍感」になります。

いつでも私たちは「得体の知れない化合物」を扱っていることを忘れないようにしましょう。


posted by ホーライ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ヒトに初めて投与する治験 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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