部下の声が耳に音声として入っていたとしても、必ずしも「内容」が上司に伝わっているとは限らない。
部下の話をしている内容が上司に伝わるためには、まず受け皿としての上司の頭の中が空っぽでなければならない。
ところが、多くの場合、部下の話を聞いている上司の頭の中は「余計なもの」でいっぱいになっている。
「余計なもの」・・・雑念、邪念、固定観念、先入観、等など。
まずは意識の矢印を部下に向けるよう心がけることがポイントとなる。
2)部下の話を口で訊く
ただ「聞く」のではなく、質問のスキルを使って積極的に部下に働きかけていく必要がある。
このように、部下の話を聞くに際して、上司が耳だけでなく口を使うということは、 部下に対して「僕はきみの話をちゃんと聞いているよ」ということを示す1つのサインとなる。
しかも、それが質問形であった場合には、部下は上司が自分の話に関心を持ってくれているという印象を持ち、ますます口も滑らかになるだろう。
ただ、ここで忘れていけないのは、そもそも「誰のために話を聞いているのか」ということだ。
質問しているからといっても、部下の話とは全く関係の無いものばかりだとしたら、これは「自分のために話を聞いている」という状態である。
たとえば、就職の面接やマスコミによるインタビューが、これに該当する。
コーチングで求められるのは「相手のために話を聞く」ことである。
3)部下の話を心で聴く
上司は部下の話に対して耳と口だけでなく心を使う必要がある。
コーチングで言う「傾聴のスキル」とは、このように耳・口・心のすべてを使った話の聞き方を指す。
では、「部下の話を心で聴く」とは、いったいどういうことなのだろう?
具体的には、「どうしたら部下が本来持っている力を最大限に発揮し、成長することができるだろうか」ということを念頭に置きながら、部下の話を聞くことである。
この時、注意しなければいけないのは、部下が成長するための答えを用意するのは上司ではないということだ。答えを見つけるのはあくまでも部下本人であって、上司はただ部下が答えを見つけやすくするように、問いによってサポートすることしかできない。
(3)直観のスキル
「傾聴のスキル」のところで、部下の可能性を引き出すためには「部下の聞いてほしいことを聴く」必要があると述べた。
しかし、実際にどうしたら部下の聞いてほしいことが聞けるのか?
ここで出てくるのが「直観」である。
直観と言うと、「いい加減」で「あてにならないもの」といったイメージを持つ方も多いだろうが、実は直観ほどコーチングで「あてになるもの」はない。
コーチングをしている時、上司の目的は、部下に問いを投げかけることで、部下の潜在意識にある答えを引き出すことにある。
一方、上司の直観は、上司の潜在意識にある。上の図を見て頂くとお分かりのように、上司の潜在意識と部下の潜在意識は「海底」の部分でつながっている。
ここは心理学用語で「普遍的無意識」と呼ばれている。
では、もしこのように、普遍的無意識を介して上司と部下の意識が互いにつながっているとしたら、上司の意識のうち、部下の答えの部分に一番近いのはどこだろうか?
それは、上司の潜在意識である。
では、反対に答えから最も遠い部分はどこだろうか?それは、上司の顕在意識である。
直観のスキルのポイントは3つある。
1) 考えない
2) 予測しない
3) リードしない
1)考えない
「考える」⇒「次はどんな質問をすればいいのだろう?」「果たして本当にこの部下の中から答えは出てくるのだろうか?」
もし、上司が一生懸命頭を働かせて考えている時、上司の意識の矢印は部下のほうではなく、上司自身の方を向いている。
上司の意識がこのような状態の時は、部下が何を聞いてほしいのかはなかなか分からない。
また、「上司が考えている」ということは、その分、「部下が考えていない」ことを意味する。
従って、この時、上司はむしろ部下の「考えている」ことを「邪魔しない」ようにすることが大切である。
そのためには、「問いかける」ことだ。
もし「どうすればいいですか?」と部下が言ってきたら、あなたは「君はどうすればいいと思う?」と聞き返すわけだ。
2)予測しない
上司がコーチングの展開や結末を予測できたということは、とりもなおさず、そこで出てきた答えが部下の潜在意識からではなく、上司の顕在意識やある意図から出てきた可能性が高いということである。それでは残念ながら、コーチングをしていることにはならない。
3)リードしない
「自分がいい質問をして部下に気付かせてやらなければならない」というふうに誤った解釈をしてしまいがちである。
これは言うまでもなく「上司が答えを知っていて部下は答えを持っていない」という上司本位の考え方から出てくる発想である。
コーチングにおいては、上司が部下を「リードする」のではなく、むしろ「フォローする」ことが大事になる。
フォローとは「上司が聞きたいことを聞くのではなく、部下の聞いて欲しいことを聞く」ということである。
部下は、実は心の深い部分では自分がその時、何を聞いてほしいのかを知っている。部下は「自分はいったい今、何を上司に聞いて欲しいのか?」という答えも持っている。
そして、そのヒントはたいがい、部下がその直前に言ったことの中にある。
たとえば上司が「君はどういうことがやりたいんだね?」と聞いたとしよう。それに対して、部下が「それがあまりはっきりしていないんです。」と答えたとする。そこで、あなたが上司なら次にどんなことを言うだろう?
フォローするというのは、たとえば「じゃ、何かはっきりしていることはあるのかい?」とか「どこをはっきりさせたいんだね?」といった問いを投げかけることである。
このように、部下の直前の答えと上司の問いの間には何らかの「つながり」がなければならない。
突然ある問いがひらめいたといって、それまでの話とは何の脈絡もない、まったくとんちんかんなことを聞くのが、直観を使うということではない。
この例で言えば、部下が直前に言った「はっきりしていない」という言葉が、次に上司が何を聞けばいいかのヒントを示してくれているわけである。
もし、この時、上司の意識の矢印が部下の方に向いていれば、「それがあまりはっきりしていないんです」という部下の発言の中に、「できればそれをはっきりさせたい」という部下の意向が感じ取れることであろう。
もし、どうしても何を聞いたらいいか分からない場合は、「今、君は何を聞いてほしいのかね?」と部下に聞いてしまえばいいのである。なぜなら、求めている答えがすべて部下の中にある以上、何を聞くか困った時には、その部下本人に聞くのが一番確実だからである。
そんな時、いくら自分の頭の中をひっくり返してみても、残念ながら答えはいつまでたっても出てこない。
(4)自己管理のスキル
自己管理のスキルとは、上司が部下をコーチングする際、「どういう態度で臨むか」ということについての技術である。
では上司は自分の「何」を管理するということなのだろうか?
これには大きく分けて3つのポイントがある。
1) 自分の頭を管理する
2) 自分の心を管理する
3) 自分の身体を管理する
では、何のために上司は自分を管理する必要があるのだろうか?
それは傾聴のスキルの「3つ目のレベル」、すなわち「部下の話を心で聴く」ためである。
部下の話を心で聴くためには、上司はその部下のために100%「その場にいる」必要がある。「その場にいる」というのは、単に上司が物理的に部下の目の前にいるということではなく、部下が自らの中にある答えを見つけるのをサポートするために、上司が自らの頭と心と身体を提供する準備を整えている状態を意味する。
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