2013年02月19日

「治験119」から学ぶ「問題解決の方法」

「治験119」から学ぶ「問題解決の方法」

●製薬協作成「治験119」(2013年1月29日版)
    ↓
http://www.jpma.or.jp/about/board/evaluation/tiken119/pdf/130129.pdf


上記のPDFの320ページに下記の質問があります。

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質問番号:2012-43 署名済み同意文書と説明文書の保存形態

国際共同治験を実施している治験依頼者Aより、同意文書及び説明文書の取り扱いについて、日本式の「説明文書の原本と同意文書の写しを被験者に提供し、同意文書の原本のみを施設に保管する」ことがICH-GCPの手順に従っていないため、米国FDAによる査察が入った際に指摘される可能性があるので、従来の同意取得時の文書保管方法を変更してほしいとの依頼がありました。

ICH-GCPの4.8.11 によると、同意文書及び説明文書(informed consent form)の写しを被験者に提供することとなっているので、原本は治験責任医師が保存すべきだというのです。

ここでいう「informed consent form」はICH-GCP 1.28に記載されている説明から、日本のGCPでいう「同意文書」ではなく、「説明文書」と「同意文書」が一体となったものという解釈であるとのことです(ICH-GCPでは日本のGCPのように「説明文書」と「同意文書」とには分けておらず、両方が含まれる「informed consent form」としているということ)。

また、治験実施計画書にも、「日付入りの署名がなされたinformed consent formのコピーを被験者に渡すこと」と記載されているので、その原本は実施医療機関で保存してほしいとのことです。ただ、説明文書を全ページコピーするのは非現実的で、実際の手順としては、説明文書を2部用意し、医療機関に説明文書と同意文書が一体となったものの原本を保存し、被験者には説明文書(2部あるうちの1部)と同意文書の写しをお渡しするということです。


別の国際共同治験の治験依頼者Bでは、治験実施計画書に、「日付入りの署名がされた同意説明文書の原本は治験責任医師が保存し、その写しを被験者に渡す」と記載されていますが、従来の日本式の取り扱い(医療機関には同意文書の原本のみが残る)なので問い合わせてみましたところ、同意文書にはIRBで承認された説明文書の版数が記載されており、その製本版(冊子)1冊を保存しておけば、被験者に適切な説明文書を用いて説明し提供したことが説明できるので問題ないとの回答をいただきました。

A社の対応についても、説明文書が2部ある時点で、A社のいう「ICH-GCPの手順」に従っていないのではないでしょうか?

A社に他国(例えば米国)ではどのような取り扱いをしているのか伺ったところ、契約書のように、同意文書と説明文書が一体となった2冊の文書に、双方がそれぞれ署名し、各々1部保存しているとのことでした(米国では「複写式の書類」というものが受け入れられないとのこと)。

これも厳密にいえば「ICH-GCPの手順」に従っていないのではないでしょうか?

コピーではないので、双方が保存しているものが同一である証拠はありません。

A社(説明文書が2部ある)、B社(説明文書の原本は被験者に交付するが同意文書に記載された版数で証明できる)どちらの対応も、被験者に渡した説明文書と医療機関に保存している説明文書が絶対同一であるということは言えませんが、それならB社の対応でよいのではないでしょうか(大多数がB社の対応だと思うのですが・・・)。

A社によりますと、実際に指摘されたわけではなく、社内でこのような懸念があるので事前に対策をしたいとのことです。

米国のように、「ICH-GCPの手順」に従っていない取り扱いでも問題ないのであれば、日本法人からも日本式の対応について説明をし、理解していただくことはできないのでしょうか?

A社の言い分は、原本さえ医療機関に残っていれば、被験者保存分は調査されることはないのでどうでもいい、と言っているかのように感じます。

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上記の質問を読んで、あなたが「回答者」なら、どう答えますか?


ちなみに、ICH-GCPはこちら
  ↓
https://sites.google.com/site/zhiyanniguansurutongzhiji/ichgaidorain-you-xiao-xing


上記のICH−GCPの4.8.11にはこう記載されています。
  ↓
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4.8.11 Prior to participation in the trial, the subject or the subject's legally acceptable
representative should receive a copy of the signed and dated written informed
consent form and any other written information provided to the subjects.

During a subject’s participation in the trial, the subject or the subject’s legally
acceptable representative should receive a copy of the signed and dated
consent form updates and a copy of any amendments to the written
information provided to subjects.

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さらにICH−GCPの1.28にはこう記載されています。
  ↓
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1.28 Informed Consent

A process by which a subject voluntarily confirms his or her willingness to participate
in a particular trial, after having been informed of all aspects of the trial that are
relevant to the subject's decision to participate.

Informed consent is documented by means of a written, signed and dated informed consent form.

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どうでしょう?

そもそも、上記の質問が来たら、「いったい、質問者は何を質問しているのか?」を明確にします。

いろんな情報や気持ちが表現されていますが、その中から、質問者が一番、聞きたいのは何かを抽出してみましょう。

「問題」は「何が問題か?」が特定されたら半分は解決したようなものです。

質問者は何を聞きたいのでしょうか?

ここで5分ほど考えてみてください。

「質問者は一体、何をききたいのか? 問題の本質は何か?」







どうですか?

上記の質問でしたら、聞きたいことは下記のとおりです。
  ↓
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●被験者から同意を取ったら、その被験者に対して説明に使った文書も一緒に治験責任医師等が保存するべきか?

ICHーGCPでは治験責任医師が「同意書と説明文書」の両方の原本を持つことになっている。(被験者にも同様に「同意書と説明文書」の両方の原本を持つことになっている。)

本当に、この通りにしないといけないのか?

従来どおり「同意書の原本」だけ治験責任医師が持っている方法はFDAに受けいれられないのか?

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さー、どうです?

今度は、解答を考えてみてください。

15分ほど考えてみましょう。







いかがですか?

問題の本質は「同意」の取得の時に、どの「説明文書」を使ったか分かればいいのではないの? ということですね。

そうなのです。

では、今、日本で行われている方法では、「どの説明文書」を使ったか分かるか否か?

ここは治験依頼者の「同意書」の作成方法によりますね。


製薬協の担当者の方も同様に答えています。
  ↓
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ご質問にも記載されていますように、日本のGCP(GCP省令)では、説明文書と同意文書は一体化した文書又は一式の文書とすることが望ましく(GCP第51条第1項ガイダンス6)、これら説明文書と同意文書の両方が保存対象となります(GCP第41条第2項)ので、規制要件はICH-GCPのそれと同等であると言えます。

しかしながら、説明文書と同意文書(ICH-GCPでいう「informed consent form」)の実際の保存形態には、国・地域で多少の違いが見られます。

欧米等では説明文書と署名済み同意文書が一体となった形態で保存されることが多く、日本では署名済み同意文書を説明文書から切り離して保存されることが一般的ですが、重要なことは「どのバージョンの説明文書が、同意取得に使用され、被験者へ提供されたかが文書上で明確であるか」だと考えます。

説明文書と署名済み同意文書の原本が一体となった形態での保存以外に、同意取得に使用され被験者へ提供された説明文書(バージョン情報を含む)が同意文書に明記され、治験審査委員会で承認された説明文書と同意文書の見本1セットと署名済み同意文書の原本が保存されていれば、何れもGCP省令のみならずICH-GCPの要件も満たした保存形態であると考えます。

今回のように治験実施計画書に規定がある場合はそちらを遵守いただき、規定がない場合は治験依頼者と協議のうえ対応されることをお勧めいたします。

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いかがでしょうか?

あなたは上記の「回答」に納得されましたか?

あなたの「回答」と同じでしたか?

大事なことは「事実」を確認することです。

上記の回答では「GCP省令」ではどう表現されているか? ICH-GCPではどう規定されているか? まで遡って回答を考えています。

また、日本の同意書の保存方法はどうなっているか? 海外ではどうか? など等



僕も社内で「治験よろず相談窓口」みたいなことをやっていますが、一番、難しいのは、実は「この人は一体、何を聴きたいのか? 問題の本質は何か?」ということを把握することです。

これは、訓練次第で向上する能力です。

そして、その訓練には「治験119」は最適です。

この場合、製薬協の見解を読む前に最低15分は「一体、何を聴きたいのか?」を考える習慣をつけましょう。

実は、そういう研修を僕は社内でやっています。

あなたもやってみませんか?


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