簡単に言うと、ICH-GCPが導入される、というようなことだ。
製薬協の外部研究所に「医薬産業政策研究所」がある。
そこが定期的に発行している「政策ニュース」がとても役立つ。
↓
http://www.jpma.or.jp/opir/news/index.html
例えば「政策研ニュース No.37」が素晴らしい。
↓
http://www.jpma.or.jp/opir/news/news-37.pdf
特に冒頭のレポートがいい。
●Patient Reported Outcome と新薬開発
−患者による直接評価に焦点をあてた新薬の臨床評価−
このレポートの出だしが「Newsweek」のようにかっこいい!
で、中身は読んでもらえばいいのだけれど、簡単に言うと「被験者の感想を医師の判断を通さずに、治験のデータとして使う」というものだ。
たとえば、「鎮痛剤」なんかは、この方法のほうがいい。
「鎮痛剤」の効果を一番知っているのは患者自身だからね。
でも、それが簡単にいかないというのが上記のレポートの趣旨なのですが。
ただ、こういう「考え方」に接した時に、自分はどう思うか? というのがとても大事。
「ふん!」で終わるかもしれないし、「へ〜〜!」となるかもしれない。
人類の科学は無数の「へ〜〜!」で成り立ってきた。
ところで、もし、「患者自身の評価」が治験のデータとして使われるということになったら、それは「パラダイムシフト」だ。
そして、それは業界とか社会とかではなく、「個人」にも起こり、それが自分の人生を豊かにしてくれる。
今や、自己啓発書の定番中の定番になった「「7つの習慣」では、このパラダイムシフトを重視している。
僕にも、これまでいくつかの大きなパラダイムシフトがあった。
たとえば、僕が治験啓発用に最初に作ったサイトの「医薬品ができるまで」というのがある。
このサイトを初めてネットに公開して(2000年6月頃)、2、3週間目頃に、ゲストブックにいきなり「わし」さんという方が「治験に参加したことがある」と投稿してくださった。
「わし」さんは「脊髄小脳変性症」という難病に罹患されていて、その治療薬の治験に参加したのだった。
ちなみに、その治験薬は承認され、「セレジスト」として販売される。
で、「わし」さんは治験では結局、「プラセボ」に割り付けられたらしい。(もちろん、ダブルブラインドの治験だった。)
この「わし」さんとの出会いが僕にはパラダイムシフトになった。
CRCや治験責任医師等は直接、患者と話し合うことがあるが、治験依頼者側にいると、被験者と会話をすることがない。
それだけでも、僕にとっては刺激になった。
また、「医薬品ができるまで」を立ち上げた当時は、僕はさかんに「治験は倫理的に行われます。そのために、病院の治験審査委員会で倫理面を審査されます」というような、治験関係者には「あたり前」のことを強調してサイトに書いていた。
ところが、「わし」さんは「病院の倫理委員会は邪魔だ。」とゲストブックに書いてきた。
なぜかと言うと、「わし」さんは自分の息子(当時、12歳ぐらい)に「脊髄小脳変性症」の遺伝子検査を病院にやってもらおうとしたのだが、病院の倫理委員会から「まだ自分の病気を受け止められる年齢ではない」というような理由で、遺伝子検査をやってもらえなかった、という経緯があるからだ。
「わし」さんは、息子さんに、自分が将来、父親と同じ病気になる可能性があるならば、それなりの覚悟を持って生きて欲しいからという理由をゲストブックに書いてきた。
この「わし」さんの気持ちと、当時の病院の「倫理委員会」の結論の是非は、とりあえず、置いておく。
僕は「そうか。人によっては倫理委員会が邪魔だと思うし、むしろ、非倫理的だと思うんだ」ということがショックだった。
これは、僕にとって治験実施側から治験(あるいは治療)を受ける側としての視点を持つ必要性を強烈に感じさせる出来事だった。
「わし」さんとはメールのやりとりも始めて、当時、東北地方に住まれていた「わし」さんに会うために「学会に参加」することにかこつけて、仙台まで行った。
その頃の「わし」さんはまだ、杖を使えば、なんとか自力で歩けていた。
ただ、椅子に座り続けることは辛いらしく、僕の宿泊するホテルのベッドに横たわって、僕と会話した。
「唾液」をうまく飲み込めない(病気のせいで喉の筋肉が衰弱しているため)ので、会話中に何度もティッシュで唾液を出していた。
「目」も固定できず、「わし」さんの目玉はゆらゆらしていた。
水は飲みづらく、むしろ、ジェルタイプのウイダーゼリーのようなもので食事代わりにしていた。
当時、僕は会社で「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の治験の監査をやっていた。(のちに「リルテック」として販売される。)
この病気も「わし」さんと同じ症状を出す病気だった。
僕は監査をやりながら、症例報告書の中の「人工呼吸器」を装着した日のチェックや「指で物をつかむ力」のデータをチェックしていた。
「わし」さんと出会う前は、監査をしながら、何も感じていなかった。
しかし、「わし」さんと出会ってから、この監査をやりながら患者や家族のことを考えるようになった。
この「わし」さんとの出会いが、僕の一番の大きなパラダイムシフトになった。
2番目のパラダイムシフトは、「モニターへの道」を作った時に起こった。
このサイトを作ったのは、僕がまだ製薬会社で働いていた時のことだ。
だから、知らず知らずのうちにモニターと言えば製薬会社のモニターとしか定義されていなかった。
そのため、そのサイトの中でCROのモニターに対して、とても失礼なことを書いていた。
僕は何の気もなく、書いた文章だった。
ところが、このサイトをネット上にリリースして、すぐに、あるCROのモニターからメールを頂いた。
そのメールの中で、その僕の不適切な個所を指摘してくださっていた。
そのメールを読んでから、その箇所を読むと、なるほど、これは、CROのモニターなら怒るな、と思った。
それで、すぐに訂正して、その旨をメールをくださったCROのモニターの方に連絡した。
そんな僕が、今はCROで働いているわけだけど、当時は、これが僕にはパラダイムシフトだった。
人間は、ついつい、自分が所属している組織の立場で考えるんだな、と。
3番目のパラダイムシフトは、サイト版の「ホーライ製薬」を立ち上げた時だった。
このサイトのトップページに3人の方の「体験談」が載っている。
以下の3つです。
●ヨネヤマさんの体験記「妻と抗生物質」
●がんの告知「あもうさん」の場合
●バジルさんの「治験体験記」
この3人の方は僕の「医薬品ができるまで」や「ホーライ製薬」の読者の方で、自発的に、僕にメールでご自分の体験談を送ってくださった。
いずれも、とても貴重な体験談だ。
特に「バジルさんの「治験体験記」」は、僕の強烈なショックを与えた。
これまた、CRCや治験責任医師等では患者から感想を直接、聞かれることがあるだろうけれど、治験依頼者側にいる僕には強烈だった。
「バジル」さんは、治験業界とはまったく縁もゆかりもない、ごく普通の「一般市民」の方で、なおかつ「文系」の方だ。
だから、「バジル」さんの体験記の中には僕が読むと治験を誤解している印象を与える箇所もあったが、もちろん、そのまま、原文のまま、公開した。
以上は、僕がネットを通じて受けたパラダイムシフトだ。
今日の最後に、ネットではないリアルな体験から。
僕が40歳の時、ごく身近な近親者が乳がんになった。
僕は、その告知にも立ち会った。
抗がん剤のタキソテールの「卵巣がん」の治験をやっていた僕は普通の人よりも「がん」に対する知識はあると思っていたが、告知に立ち会った時は、一瞬にして頭が真っ白になった。
右乳房の全摘出手術にも立ち会った。
手術が終わる頃、手術室から僕は呼ばれた。
手術室の出口の(本当は別の名前があるのかもしれないが)ところで、執刀医から、摘出された乳房とリンパ腺を見せられ、説明を受けた。
「これが、がん、ね。で、これがリンパ。多分、リンパにはがんがない」と言われた。
たまたま、執刀医はタキソテールの「乳がん」の治験責任医師で、僕がタキソテールの「卵巣がん」の開発をやっているのを知っていたので、執刀医は最後にこう付け加えた。
「さいわい、タキソテールを使わずにすみそうだ。」
僕は「卵巣がん」の患者のカルテもCRFも何十とチェックしてきたが、卵巣がんの患者がどんな気持ちで治験に参加しているかなんて考えたこともなかった。
しかし、この体験後からは、常に治験に参加してくださった「がん患者」と家族のことを考えるようになった。
以上のネットを通じてと感じたことや、実際の体験を通して感じたことを、僕はいつも新入社員のモニターに紹介する。
そして、必ず、こう言う。
「こんな思いをして治験に参加してくださった患者さんのデータを、モニターのせいで、申請データから削除せよ、となったら、それは『患者の命』に対して、失礼だからね!」
話は最初に戻します。
「政策研ニュース No.37」の中の「Patient Reported Outcome と新薬開発−患者による直接評価に焦点をあてた新薬の臨床評価−」のような、これまでの自分の考え方を変えるような事実や知識に触れると、パラダイムシフトが起こることがある。
それは、あなたの人生を豊かにしてくれる。
何も劇的な科学的革命ではなくても、日常のちょっとしたことから、急に開眼することがある。
それを大切にしていこう!
明日は、パラダイムシフトの「企業編」です。
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