特に「植物由来」の薬について見ていきたいと思います。
今日は「妖しげな植物」です。
まずは軽く「麻」(アサ)です。
この麻の花冠、葉を乾燥または樹脂化、液体化させたものが「大麻」又は「マリファナ」です。
これに含有される化学物質カンナビノイド(特にテトラヒドロカンナビノール (THC) )には様々な薬理作用があり、「嗜好品」や「医薬品」として用いられる。
日本においては、大麻取締法により、大麻の所持、栽培、譲渡等に関して規制がある。
(日本では、無許可所持は最高刑が懲役5年、営利目的の栽培は最高刑が懲役10年の犯罪である。産業用のアサは、陶酔成分が生成されないよう改良された品種が用いられる。)
大麻の薬や嗜好品としての歴史は長く、中国で2700年前にシャーマンが薬理作用を目的としたとされる大麻が発見されている。
後漢の頃に成立したとされる中国最古の薬物学書「神農本草経」には薬草として使われていたことが記されている。
歴史の父と呼ばれるヘロドトスは、『歴史』において、紀元前450年のスキタイ人やトラキア人は大麻を吸っていたと伝え、70年にはローマの医学治療として大麻の使用が言及された。
1886年に印度大麻草として日本薬局方に記載され、1951年の第5改正日本薬局方まで収載されており、庶民の間でも痛み止めや食用として戦後に規制されるまで使用されていた。
相対的には「タバコ」よりも「人体に対する悪影響は低い」という報告もあるが、絶対にダメ! だからね。
次に「モルヒネ」(これは立派な医薬品)です。
モルヒネは、アヘンに含まれるアルカロイドで、チロシンから生合成される麻薬のひとつ。
「アヘン」は「ケシ(芥子)の実から生産されるもの」ですね。
モルヒネはベンジルイソキノリン型アルカロイドの一種。
この「アルカロイド」がまた薬の宝庫だ。
それは置いといて。
モルヒネからは依存性のきわめて強い麻薬、ヘロイン(塩酸ジアセチルモルヒネ)がつくられる。
医療においては、癌性疼痛をはじめとした強い疼痛を緩和する目的で使用される。
モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠の「MSコンチン」(塩野義製薬)は「癌の激しい疼痛の鎮痛」に使われる「医薬品」。
モルヒネはオピオイド神経を興奮させ、下降性疼痛制御により、侵害受容器(痛みを感じる受容器)で発生した興奮の伝達を遮断し上行性疼痛伝達をとめることにより中枢鎮痛作用を示す。
(僕も癌の末期状態になったら、この「MSコンチン」で中毒になって死にたいなどと戯言を言っていますが、でも、本当に癌の疼痛を和らげるのは人間の最後の最後までQOLを向上させるのに大きく寄与していると思います。
モルヒネの歴史は1804年、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナー (Friedrich Sertürner) により、初めて分離される(この物質は、史上初めて薬用植物から分離されたアルカロイドとなった)。
ヘロインは塩酸モルヒネを無水酢酸で処理し、生成する。
ロンドン・セントメアリー病院医学校のアルダー・ライトによって1874年に調合され、ドイツのバイエル社から鎮咳薬として1898年に発売された。
次に「コデイン」です。
このコデインもまた「アヘン」(ケシ(芥子)の実)から発見された。
コデインはアヘン中のアルカロイドとして0.7から2.5%の濃度で含まれる。
コデインはアヘンから得られるにもかかわらず、合衆国内で使用されているコデインはモルヒネをO-メチル化して合成されている。
コデインの誘導体である「リン酸ジヒドロコデイン」は「咳止め」(鎮咳薬)として、今でも、立派に使われています。
僕が大学を卒業して最初に勤めたOTCのメーカーでも「コデスミン」という「鎮咳薬」を製造していましたが、この中に「リン酸ジヒドロコデイン」が配合されていた。
リン酸ジヒドロコデインはある特定の製薬会社(某大手製薬会社)しか製造が許可されていなくて、そこから購入すると、すぐに会社で一番丈夫で重たい金庫の中に僕がしまっていた。
そして3か月おきに「関東信越厚生局 麻薬取締部」に「リン酸ジヒドロコデイン」を1g単位で報告していた。
ちなみにリン酸ジヒドロコデインを澱粉等で100倍(100倍散)に希釈すると「麻薬」ではなくなる。
100倍散=リン酸ジヒドロコデイン1gを999gの澱粉等に混ぜる、ということ。
鎮咳薬にはこのリン酸ジヒドロコデインの他に「覚せい剤原料」の「エフェドリン」が一緒に配合されることが多くて、深夜の「クラブ」あたりで「鎮咳薬シロップ」の「一気飲み」が流行ったことがあった。
また、ある時、新聞で読んだけれど、暴力団のひとりが麻薬取締法で逮捕されたのだけれど、彼の部屋の押し入れには「分液ロート」とか「エバポレーター」が隠してあり、「化学」の教科書もあったという。
彼は鎮咳薬からジヒドロコデインを抽出して濃縮してさばいていたらしい。
人間、その気になると(悪い例だけど)、何でもやってしまうものです。
「コカイン」はコカノキに含まれるアルカロイド。トロパン骨格を持ちオルニチンより生合成される。
粘膜の麻酔に効力があり、局所麻酔薬として用いられる。
コカインを摂取した場合、中枢神経興奮作用によって快感を得て、一時的に爽快な気分になることがある。また、コカインは薬物依存症の原因になる。
日本では麻薬及び向精神薬取締法で規制対象になっている麻薬である。
「麦角アルカロイド」から作られるのが「LSD(lysergic acid diethylamide)」。
LSDはインドール核を有し、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンによく似た構造を持つ(LSDの4つの環のうち2つはセロトニン分子の環系であり、セロトニンにつく側鎖はLSDの構造の一部に類似している)。
そのためLSDはセロトニン受容体に結合し、5-HT2のアンタゴニストとして、5-HT1Aと5-HT1Cのアゴニストとして働き、セロトニンの作用を阻害するために幻覚が起こると考えられている。
日本では1970年に麻薬に指定された。
ちなみにザ・ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の3曲目に「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」という曲がある。
作詞はジョン・レノンだけれど、この「Lucy in the Sky with Diamonds」の頭文字を取ると「LSD」となり、これはジョン・レノンが薬物の「LSD」を使った時に見えた幻影を曲にしたのではないかという噂がある(真偽は定かではない)。
「麦角アルカロイド」も薬の宝庫で、リゼルグ酸,エルゴタミン,エルゴメトリン,エルゴクリスチンなどがある。
「麦角アルカロイド」とは小麦・ライ麦などに寄生する麦角菌(Claviceps purpureaなど)により産生されるアルカロイドのこと。
エルゴタミンは血管収縮作用をもち片頭痛治療薬として使われた。
エルゴメトリンは子宮の平滑筋を収縮させ、陣痛促進や分娩後の子宮出血抑制に用いられた。
次に「メスカリン」。
メスカリン はフェネチラミン(フェネチルアミン、フェニレチルアミン)系のサイケデリック麻薬(幻覚剤)である。
硫酸メスカリンとして化学的に合成することもでき、サボテンの一種であるペヨーテ等の成分として得ることもできる。
名称はメスカレロ・アパッチが儀式の際に使用したことに由来する。日本では麻薬に指定されている。
サボテンの「ペヨーテ」(和名はウバタマ)はちゃんと育てれば、ちゃんと花が咲く。
ウバタマサボテン属の植物は生長がきわめて遅く、野生では地上部分の大きさがゴルフボール大になって、花をつけるようになるまでに約30年もかかることがある。
栽培株はかなり生長が早いが、それでも発芽してから花をつけるまでには6年から10年が必要である。
サボテンは水をやり過ぎると腐ります。(僕はいつもこれでサボテンの育成に失敗している。)
この「ウバタマ」を辛抱強く育て、花がついたという写真を津村ゆかりさんがfacebookに載せられたことから、今週のホーライ製薬のテーマが決まったというわけだ。
ここで「ボトックス」(グラクソ・スミスクライン)を唐突に思い出したので書きます。(植物とはちょっと違うけれど。)
ボトックスはボツリヌストキシンを希釈した薬で「日本国内においてはA型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックス注用50単位・100単位)が注射剤として、1996年に眼瞼痙攣、2000年に片側顔面痙攣、2001年に痙性斜頸、2009年に2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足、2010年に上肢痙縮・下肢痙縮の適応で承認されている。」
そもそも「ボツリヌストキシン」とはボツリヌス菌が産生する毒素である。ボツリヌス毒素とも呼ばれる。
ボツリヌス菌食中毒の原因となり、極めて毒性が強い(致死量:ヒトに対しA型毒素を経口投与した場合、体重1kgあたりの致死量が1μgと推定されている。
「毒」は「人間に強い生理作用」を持っているので、それを何らかの方法で(たとえば誘導体を作り)毒性を弱くすると、それがそのまま薬になったりするわけです。
「毒」が「薬」になる例として「ツボクラリン」がある。
ツボクラリンは南米の先住民が古くから狩猟などに用いてきたクラーレ (curare) と呼ばれる矢毒のうち、ツヅラフジ科コンドデンドロン属の植物が材料のツボクラーレと呼ばれるものから1935年にハロルド・キングにより単離された。
ツボクラリンは少量でも傷口から体内に入ると末梢神経と筋の接続部のニコチン受容体においてアセチルコリンと拮抗、興奮伝達を阻害して目・耳・足指(短筋)→四肢の筋→頚筋→呼吸筋の順に骨格筋を麻痺させることにより、呼吸困難を起させて窒息死させる。
逆に経口摂取しても排泄がすみやかで毒性を発揮しないため、これを含む矢毒を用いて倒した動物を食べても害が無く、狩猟に用いるには都合が良い。
今日では単離されたものが筋弛緩剤として医療現場で用いられている。
また、薬理学の実験には欠くことができないものである。
妖しい薬の話はここまで。
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ちなみに、マオウから抽出されるエフェドリンは覚せい剤の原料です。
マオウも漢方でよく使われますよね。