2012年08月31日

ゲノム創薬と治験の現場

と言うことで、今週は「ゲノム創薬」について、断片的に見てきましたが、どうです?

本当に、ゲノム創薬は功を奏しているのだろうか?

最近、治験では、「将来のために」ということで、患者さんの血液を採取して、「ゲノム解析」のためだけに、調査を追加している治験もある。

けれども、それはあくまでも「今後の研究のために」であり、即、治験のデータ解析に使います、というものではない。

ヒトのゲノムが全て解析された2002年の頃、僕たちのような多少なりとも「創薬」に絡んだ仕事をしている人たちは、「まぁ、それはそれで進歩だけれど、全ゲノムが解析されても、それが来年にでも新薬の開発に繋がることはまず、無いだろうね」と思っていた。

でも、一般の人、特に自分や家族が遺伝子関連の難病の方たちは、「すぐにでも、この病気を治してくれる新薬」を期待していた。

でも、残念ながら、僕たちの科学は、まだ、そこまで進んでいない。

それは、2002年でも、2012年でも、大差がない。

ここに興味深い、小文がある。
   ↓
「創薬研究の難しさ」
   ↓
「創薬研究の難しさ」


以下、引用。

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軽々しく新薬開発などと言うのは問題だと,杉村隆国立がんセンター名誉総長に話したら「西村君,気にする事は無い.あれは短歌の枕詞の様なもので,誰も本気にしていないよ.」と言われたのを思い出す.

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そうなのだ。

これが、本当のことを知っている科学者の本音だ。

さらに引用。

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これまでの何十年にも亘る生化学,分子生物学の研究が基礎となって,画期的な新薬が沢山生まれた事は事実であるが,だからと言って,そのペースでこれからも新薬が生まれるであろうか?

ゲノム創薬とか,分子標的治療,トラスレーショナルリサーチ,オーダーメイド治療などと,キャッチフレーズは流行っていても,実際にそのような研究が画期的な新薬に結びついた例は少ない.

がんの領域で言えば,ヒト慢性骨髄性白血病に対するグリベック位である.

創薬研究は総合科学である.

すなわち,ターゲット分子の同定,それを標的とするin vitro 評価系の確立と化合物のスクリーニング,最適化合物の有機合成,薬理動態の研究,実験動物を用いた副作用の研究,遺伝子改変マウスなどを用いた薬効の確認など,一連の研究を緊密な連携の下に遂行することにより,初めて臨床開発への候補品が選ばれる事になる.

・・・・・・・・・

がんの分野の新薬と言えば,大鵬薬品の白坂哲彦博士を中心として生まれたS-1が挙げられる.

何十年にも及ぶ地道な,且つ執念とも言うべき研究の成果である.

これは所謂分子標的薬では無い.

やたらと流行を追うので無く,各人が自分の研究を地道に進めて行けば,その内のどれかが,何時か新薬の開発に結びつくのでは無いだろうか.

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そのとおり!なのだ。

どんなに科学が発展しても、基本は、「地道な研究」なのだ。

そんな地道な研究の末に、臨床に上がってきた新薬の卵のデータを治験で集める、それは、まるで「非科学的」な「モニタリング」に頼っている。

GCPをまともに知らないモニター。(そんな人が全てとは言わないが)

日常診療の片手間に治験をやっている臨床医。(そんな人が全てとは言わないが)

システマチックになっていない治験の手続き。

ヒエラルキーと力関係が未だに残る「医師」と「モニター(製薬会社)」。

それでいて、新薬の開発費の80%を占める「金のかかる治験」。

接待を要求する医師。(そんな人が全てとは言わないが)

鉛筆で予めCRFにデータやコメントを記載し、それを医師になぞらせるモニター(製薬会社)。(そんな人が全てとは言わないが)


僕は時々、自分の無力感を感じる(そりゃそうだ。それが事実なのだから。)

それは、何故かと言えば、ゲノム創薬だろうと、抗体医薬品だろうと、最後は「力任せ」の治験に頼らざるを得なく、モニター、CRC、治験責任医師、治験事務局、という人たちの絶えざる努力でしか、治験が成り立たないからだ。

EDCだろうが、リモートSDVだろうが、e-CTDだろうが、最終的にはそれに関係する「人の質」に頼っている。

そういう人たちの質を上げる方法は「研修」でカバーできるのだろうか、と考えてしまう。

でも、「きっと、無理だ」と思っていると、仕事にならない。



「ゲノム創薬」が、まだまだ、発展途上だと知っていても、「患者の苦しみ」のためには、僕たちは前進するしかないのだ。(どちらに進めば、それが「前進」なのかさえ定かではないが。)

科学はどんなに発展しても「万能」ではない。

そして、そんな科学を発展させるのが、人間の力と知恵だ。


いつまでも泥臭い治験でいいのだろうか?


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posted by ホーライ at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 新薬の開発という仕事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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