特に「植物由来」の薬について見ていきたいと思います。
漢方薬を見るまでもなく、植物は薬の宝庫です。
植物由来の薬は「くさるほど」あります。
さらにアヘン、マリファナ、脱法ハーブ等を見るまでもなく、妖しげな作用も植物には多数あります。
さらにさらにトリカブト、ツキヨタケ、ベニテングタケ等を見るまでもなく毒薬の宝庫でもあります。
・・・・・・ということで今週は植物由来の薬の話ですが、(話は50万光年ほど飛びますが)実はこのホーライ製薬の毎週のネタを考えるのって、これが実は意外と大変なのだ。
だいたい毎週、木曜日に次週のネタを考えるんだけれど、これが胃が痛くなるぐらい困る。
書くテーマさえ決まればなんとかなるけれど、そのテーマさえ思いつかないことも多々ある。
今週のテーマはいろんな所でお世話になっている「津村ゆかり」さんとのfacebookでのやりとりからネタのヒントを頂きました。(津村さん、ありがとうございます!津村さん、大丈夫です!!あやしげな薬を創ったりしませんので。いや、創るかな・・・)
ちなみに津村ゆかりさんとは長いおつきあいでして(もちろんネット上だけですが)、彼女のサイトに僕の昔の「医薬品ができまで」が紹介されています。
↓
http://www5e.biglobe.ne.jp/~ytsumura/hpage05.html#soshilnk
まぁ、そんなこんなで今週は植物のお話です。
まずは、「タキソテール(ドセタキセル)」(サノフィ・アベンティス)と「タキソール(パクリタキセル)」(ブリストル・マイヤーズ)です。
何故、この薬を最初に選んだのかというと、僕が初めてモニターになった時に「タキソテール」の「卵巣がん」を開発するモニターをやったからなのですね。
この「タキソール」の発見はアメリカの国家戦略で発見されました。
アメリカの第40代レーガン大統領の大号令で抗がん剤の開発を国家レベルでやっていたというわけです。
何故、レーガン大統領なのか?
実はレーガンはアメリカ史上、最年長で選出された大統領(69歳349日)であり、唯一離婚歴を有する大統領だからです(離婚は関係ないけれど)。
最年長で大統領になって、自分が「がん」になることを恐れて国の予算をドバっとNIHに提供して、世界中の隅から隅までシーズ探しをやらせました。
実際に、レーガンは何度か鼻の頭に皮膚がんができて手術で取りました。
ちなみに、あとになって知ったのだけれど、僕のところにもNIHから「おまえの作った化合物を5g送れ」と手紙が来た。(もちろん謝礼金はなし。)
当時、僕はピロリジン骨格の化合物合成をやっていて、その論文の中から、気になる骨格をNIHが見つけて、それで「送れ」ということになったらしい。
しょうがないから、送ったけれどね。
で、その国家レベルの抗がん剤シーズ探しで最も有力だったのが、「セイヨウイチイ」の樹皮から抽出されたタキサン化合物。
これを基にパクリタキセルが合成され、当時の世界で最も抗腫瘍効果が高かった(in vitroで)のだ。
それをアメリカの製薬会社、ブリストル・マイヤーズが商品開発に乗り出した。
一方で、フランスの製薬会社のローヌ・プーラン ローラーという会社は「セイヨウイチイ」の葉から、やはりタキサン骨格を持った化合物を抽出して、これもまた抗腫瘍効果が高いことを発見し、「タキソテール」として開発を始めた。
僕は、この「ローヌ・プーラン ローラー」に勤めていて、「タキソールはセイヨウイチイの樹皮を剥いで抽出するので、そのイチイの木はだめになるが、タキソテールは葉から抽出できる。葉はむしっても、次の年にまた出てくるので、省資源的にも優れている」という訳の分からない「利点」を覚えたものだ。
まぁ、他にもタキソテールはタキソールに比べて水溶性が高いとか、点滴時間が短くて済むとか、メリットはあったのですが。
(ちなみに、この「タキソテール」と「タキソール」って、名前が似ていて、投薬する時に間違いやすいので、いつも「ヒヤリ・ハット事例」にのるんだよね。抗がん剤だから、間違えるとやばいよね。どっちの会社も思い入れがあるので、名前を変えそうにない。)
「タキソテール」も「タキソール」も今では広く、多くの「がん」の治療薬として使用されている。
作用機序はどちらも細胞分裂の際にできる「微小管(チューブリン)」の脱重合を阻害することで、がん細胞を死滅させる、というものだ。
植物由来の抗がん剤としては「イリノテカン(カンプトテシン)」(ヤクルト本社ー第一製薬)もある。
「イリノテカン」は「カンレンボク」という植物から得られる。
この「カンレンボク」は和名が「キジュ(喜樹)」というおめでたい名前がついている。(まるで、将来、抗がん剤が発見されることを予想してつけたような名前だ。)
イリノテカンの作用機序はトポイソメラーゼTを阻害することです。
トポイソメラーゼはDNA複製時に生じたねじれや構造上のゆがみを修正する為にDNAを適宜切断および再結合させる働きを持つ酵素です、はい。
そのほかに植物由来の抗がん剤として有名なところとしては「ビンクリスチン」がある。
「ビンクリスチン」の歴史は古く、「ニチニチソウ」から発見されている。
「ニチニチソウ」は生命力が強いので、「きっと、何かある」と科学者の勘で調べ始めたんじゃないのか、なんて思ったりしている。(本当のところは知らない。)
ビンクリスチンの作用機序は微小管(チューブリン)の重合反応を阻害することによる細胞の有糸分裂阻害。
また、多くの植物にある「リグナン」という物質から作られた抗がん剤として「エトポシド」がある。
この「エトポシド」はメギ科ポドフィルムの根から得られた「リグナン」から開発された。
植物とはちょっと違うけれど、エーザイの「ハラヴェン(エリブリン)」は海綿由来の天然有機化合物であるハリコンドリンBの大環状ケトン合成アナログ(構造類縁体)だ。
ハリコンドリンBはハリコンドリア属 (Halichondria) の海綿(クロイソカイメン)から単離された、ユニークな作用機構を有する強力な細胞分裂阻害剤である(2009年に、岸義人らによりE7389(エリブリン)の新規合成経路が報告されている)
この化合物が発見当初から、無茶苦茶、合成が難しいという評判だった。
ハーバード大の岸先生のエレガントな合成方法に驚嘆したものだ。
ハラヴェン(エリブリン)はチューブリンの合成阻害。
初めて乳がんで生存期間の延長させた抗がん剤です。
抗がん剤ついでに話を展開すると、有名な抗がん剤に「シスプラチン」という「白金製剤」がある。
構造式の中に白金(Pt)が入っているので、とても高価!
で、何故、白金に抗腫瘍効果があることが分かったのか?
ある「ものぐさ」な科学者が「白金電極」を寒天培地に突っ込んで忘れていたら、大腸菌の生育を抑えることを偶然、発見したのがきっかけです(1965年、アメリカ合衆国のバーネット・ローゼンバーグです^^;)。
まるで、フレミングのペニシリンみたいだね。
「ものぐさ」も科学者の大切な「能力」なのだ。
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