そもそも、ゲノム創薬とは?
あるいは、バイオ医薬品とは?
ゲノム創薬って言うけれど、実際のところ、どうなの?
まず、意外と古い歴史があるバイオ医薬品について。
遺伝子の組み換え技術を利用して、微生物や動物の培養細胞によってつくられる「バイオ医薬品」は、1980年代後半に実用化された。
僕がプラント立ち上げに携わったバイオ医薬品は、「酵母」に人間の血液凝固因子を作らせるものだった。(1987年頃)
遺伝子組み換え技術で世界で初めて作られた薬は、インスリン。
糖尿病の患者さんは継続的にインスリンを投与する必要があるけれど、従来、インスリンは人工的に合成するのが難しいとされていた。
ウシやブタのインスリンを作る遺伝子はヒトと似ているため、血液中の新素凜を精製すれば薬を作ることができたけれど、、免疫反応という大きな問題があった。
そこで、遺伝子組み換え技術の応用だ。
まず、正常にインスリンを分泌するヒトの遺伝子を切り出し、大腸菌のプラスミド(環状の小さな二本鎖のDNA)に組み込みこむ。
大腸菌に組み込まれた正常なヒトインスリン遺伝子が大腸菌中で働き出し、大腸菌がヒトインスリンをつくる。
大腸菌は培養が極めて容易で増殖スピードが速いため、ヒトインスリン遺伝子を発現する大腸菌を大量培養すれば、大量のヒトインスリンを確保することが可能になる。
バイオ医薬品は(1)得られる医薬品の純度が高い、(2)大量生産ができる、(3)タンパク質などの構成成分の一部を改変できる、(4)複雑の構造をもつ化合物を作成できるので、薬の安定性の向上や効果を長続きさせるなどの付加価値が付けられる、などのメリットが大きく、これまでは治癒の難しかった遺伝性の疾患や難病の治療にもつながると期待されていた。
研究・開発が進んだ現在はヒトインスリンだけでなく、赤血球の量を増やし腎性貧血の治療薬に使われる「エリスロポエチン(EPO)」、免疫力を亢進させ、がんの化学療法を補助したりC型肝炎の治療に使用される「インターフェロン(IFN)」、低身長症の治療薬の「ヒト成長ホルモン(hGH)」など、多くの医薬品が遺伝子組み換えでつくられている。
バイオ医薬品は現在、約230種類が市販され、全市販薬の売上の約20%を占めるまでになっており、がん、心筋梗塞、糖尿病、AIDS、パーキンソン病、多発性硬化症など様々な病気に対して使用されている。
バイオ医薬品の可能性と市場規模は今後もさらに拡大することは間違いないでしょう。
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●「日本におけるバイオ医薬品開発」
では、ゲノム創薬とは?
解読されたヒトゲノムの情報を基に、病気や病態を狙い撃ちする全く新しい医薬品を開発しようという試みが、ゲノム創薬と呼ばれる分野だ。
遺伝子(Gene)と染色体(Chromosome)の合成語であるゲノム(Genome)。
そもそも、1990年、米国を中心に、日英仏独中の16研究機関の科学者が協力して、人間の遺伝子に刻み込まれた情報を解読する「国際ヒトゲノム計画」がスタートした。
そして人間の細胞核内にある染色内には約30億対の塩基配列が存在していることが判明し、その過程で約1000種にも上る病気の発症に関する遺伝子が発見された。
また、この研究では人間のDNAは99.9%まで同じだが、残りの0.1%が異なることが分かり、この部分に人間の多様性や病気に関する個人差の原因があると考えられている。
2005年にはこの個人差の指標となるハプロタイプマップ(HapMap)の第1相データが発表され、2008年には寄り詳細な疾病関連遺伝子のマップを作製する「1000ゲノムプロジェクト」がスタートした。
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●「1000 Genomes Project data available on Amazon Cloud」
従来の創薬プロセスは、数万存在する化合物を一つずつ調査することをベースにしていたため、新しい医薬品の候補物質の発見には研究者の経験だけでなく、「勘」や「偶然」といった面に頼らざるを得ない面があった。
しかし、遺伝子情報をベースに病気との関連性を解析し、論理的かつ科学的に新たな医薬品の芽を見つけようとするゲノム創薬は、コンピュータに蓄積されたデータを特定の方式でデザインされたソフトウェアで検証するだけなので、効率が非常によいのが特徴だ。
また、これまでの創薬が対象とするのは、生理機能の調節に関係する細胞の受容体や酵素あたりに限界があったため、400種類程度。
しかし、遺伝子の産物であるタンパク質やDNAが対象になるゲノム創薬では、一気に3000以上に対象が拡大されるといわれている。
つまり、従来と比較して創薬のターゲットになる物質を発見できるチャンスが大幅に増えるだけでなく、そのプロセスでは研究者の経験よりも解析力が問われることになったため、ベンチャー企業の参入ができるようになってきた。
2003年に人間の遺伝子情報の完全解読が完了したことを契機に、一斉に開始されたゲノム創薬は早いもの勝ちという投機的な側面を持ち合わせている。
検証すべきターゲットはデータベースとして存在していますので、開発生産性をいかに高められるかどうかが重要になる。
近年、海外の製薬企業が莫大な資本力を背景に合併を繰り返し、研究者を大量に確保しているのは、そのスケールメリットを活かしてゲノム創薬競争を一気に征しようという野望があるのだろう。
今さら、言うまでもなく、世界最大の製薬企業であるアメリカのファイザーの年間研究費は、国内最大である武田薬品の5倍以上を誇っている。
また欧米ではそれまで遺伝子解析を専門としてきたベンチャー企業がゲノム製薬企業となって、その規模を拡大中。
欧米勢に押され気味だった日本の製薬企業も対抗手段として、異業種同士の提携や商社の資本参加などを行っていますが、規模の面では依然として大きく遅れをとっているというわけだ。
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