2012年08月31日

そもそも高血圧とは?

今週は、古くて、新しい病気の「高血圧」を見ていきたいと思います。

今後も、ときどき、こんなふうにある疾患について学んでいきます。


何故か?

スーパーモニターやスーパーCRCになるには、浅くてもいいので、幅広い疾患の知識が必要だからです。

何故か?

何故ならば、どんな疾患を対象としたプロトコルであったとしても、有害事象としては、なんでもありえるからです。

たとえば、「更年期障害」を対象とした治験を担当したとしても、患者さんがいつ「子宮がん」になるかわかりませんし、「糖尿病」になってしまうかもしれません。

たとえば、「高血圧」を対象としたプロトコルだとしても、患者さんが突然、「緑内障」になってしまう可能性もありますし、「肺炎」なってしまう可能性だってあります。

だから、有害事象の対応がいつでもできるように、幅広い知識を持っておいたほうがモニターもCRCもやりやすいわけです。

それに、いつでも、どんな疾患の治験でも担当できるぞ!とスタンバイしておくのが賢いモニターでありCRCです。


とまぁ、そんなこんなで、今週は「高血圧と降圧剤」についての勉強会です。

1週間を使って「高血圧と降圧剤」を学んでいきましょう。

ちなみに、僕は降圧剤を2種類、服用している。

1つは朝、「アムロジン」(カルシウム拮抗薬)で、もう1つは夜、「オルメテック」(アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB))だ。

これらの薬を服用する前の血圧は大体95と150で、最初は「オルメテック」だけだったのだが、効果が薄く、90、145位を推移していた。

そこで、「アムロジン」が追加されて、今では、大体、85、135位。

食事(減塩)の指導と体重増加に注意すること、禁煙することを言い渡されている。(ちなみに、僕の母親がやはり高血圧で治療中。)


そもそも、高血圧(Hypertension)とは、血圧が正常範囲を超えて高く維持されている状態である。

高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全などの発症リスクとなる点で臨床的な意義は大きい。

生活習慣病のひとつであり、肥満、高脂血症、糖尿病との合併は「死の四重奏」「syndrome X」「インスリン抵抗性症候群」などと称されていた。

これらは現在メタボリックシンドロームと呼ばれる。


高血圧のガイドラインを見てみよう。

これは、「日本高血圧学会」にある。
   ↓
「高血圧治療ガイドライン」


至適血圧 < 120 かつ < 80

正常血圧 < 130 かつ < 85

正常高値血圧 130〜139 または 85〜89

I度高血圧 140〜159 または 90〜99

II度高血圧 160〜179 または 100〜109

III度高血圧 ≧180 または ≧ 110

(孤立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ < 90

収縮期血圧が140以上または拡張期血圧が90以上に保たれた状態が高血圧であるとされている。

しかし、近年の研究では血圧は高ければ高いだけ合併症のリスクが高まるため、収縮期血圧で120未満が生体の血管にとって負担が少ない血圧レベルとされている。

僕はI度高血圧だったわけだ。


生活習慣の修正項目

1.減塩 6g/日未満

2.食塩以外の栄養素 野菜・果物の積極的摂取*
コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える、魚(魚油)の積極的摂取

3.減量 BMI(体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)])が25未満

4.運動 心血管病のない高血圧患者が対象で、中等度の強度の有酸素運動を中心に定期的に(毎日30分以上を目標に)行う

5.節酒 エタノールで男性は20-30ml/日以下、女性は10-20ml/以下

6.禁煙  

生活習慣の複合的な修正はより効果的である

*重篤な腎障害を伴う患者では高K血症をきたすリスクがあるので、野菜・果物の積極的摂取は推奨しない。

糖分の多い果物の過剰な摂取は、特に肥満者や糖尿病などのカロリー制限が必要な患者では勧められない。




●高血圧の原因

高血圧は原因が明らかでない本態性高血圧症とホルモン異常などによって生じる二次性高血圧に分類される。

本態性高血圧の原因は単一ではなく、両親から受け継いだ遺伝的素因が、生まれてから成長し、高齢化するまでの食事、ストレスなどの様々な環境因子によって修飾されて高血圧が発生するとされる(モザイク説)。


★動脈硬化症による脳内酸欠:一般的に病院で高血圧と診断される大部分の原因は、上行大動脈の動脈硬化症による脳内酸欠を防ぐため、血圧が上がっている状態のことをいう。

★遺伝:両親の一方あるいは両方が高血圧であると高血圧を発症しやすい。

★塩分:日本人の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関与が強いとされる。日本人の食塩摂取量は1日平均12gであり、欧米人に比べて多い。日本人の食塩嗜好は野菜の漬け物、梅干し、魚の塩漬けなど日本独自の食生活と関連があるが、2004年版に発行された日本の高血圧治療ガイドラインでは1日6g未満という厳しい減塩を推奨している。

食塩(塩化ナトリウム)だけでなく重曹(炭酸水素ナトリウム)などを含む食品および胃腸薬の摂取に対しても注意が必要。

食塩の過剰摂取が高血圧の大きなリスクとなるのは、身体の電解質調節システムに原因がある。

細胞外液中でナトリウムをはじめとする電解質の濃度は厳密に保たれており、この調節には腎臓が大きな役割を果たしている。

すなわち、濃度が正常より高いと飲水行動が促され、腎では水分の再吸収が促進される。反対に、濃度が低い場合は腎で水分の排泄が進む。

結果として、血中のナトリウムが過剰の場合は、濃度を一定に保つため水分量もそれに相関して保持され、全体として細胞外液量が過剰(ハイパーボレミア:hypervolemia)となるのである。

腎のナトリウム排泄能を超えて塩分を摂取している場合、上記のメカニズムで体液量が増加して高血圧を来す。

ナトリウム過剰で高血圧をきたしやすい遺伝素因も存在することが確認されている。

ストレスや肥満、飲酒なども高血圧の発症に関与するとされる。



●高血圧の合併症

高血圧が持続すると強い圧力の血流が動脈の内膜にずり応力を加えると同時に血管内皮から血管収縮物質が分泌されることで、血管内皮が障害される。

この修復過程で粥腫(アテローム)が形成され、動脈硬化の原因となる。

慢性的疾患は大きく 「脳血管障害」、「心臓疾患」、「腎臓疾患」、「血管疾患」の4つに分類され、高血圧によって生じる動脈硬化の結果、以下のような合併症が発生する。


★脳血管障害

脳卒中
脳出血と脳梗塞およびクモ膜下出血に分類されるが、高血圧と関連が深いのは前2者である。


★心臓疾患

虚血性心疾患
心筋梗塞や狭心症などの冠動脈の硬化によって心筋への血流が阻害されることで、心筋障害をきたす疾患群をいう。

高血圧が虚血性心疾患の重大な危険因子であることは間違いがないが、高コレステロール血症、喫煙、糖尿病、肥満などの関与も大きい。

最近は腹部内臓型肥満に合併した高血圧や高トリグリセライド血症、耐糖能異常などが冠動脈疾患のリスクであるとされ、メタボリック症候群として注目されている。

肥大、心不全

高血圧が持続すると心臓の仕事量が増えて、心筋が肥大してくる。

肥大した心筋はさらに高血圧の負荷によって拡張し、最終的には心不全に陥る。

また肥大した心筋では冠動脈からの血流も減少するために、虚血に陥りやすく、不整脈、虚血性心疾患の大きなリスクとなる。


★腎臓疾患

腎障害

腎臓の糸球体は細動脈の束になったものであり、高血圧によって傷害される。

また、糸球体高血圧がレニン-アンギオテンシン系を賦活するためさらに血圧を上昇させる。

糸球体は廃絶すると再生しないため、糸球体障害は残存糸球体への負荷をさらに強めることとなる。

最終的には腎不全となり人工透析を受けなければならず、やはり社会的、経済的な負担は大きく、その進展予防は重要である。


★血管疾患

動脈瘤

胸部や腹部の大動脈の壁の一部が動脈硬化性変化によって薄くなり、膨隆した状態を大動脈瘤という。

内径が5cm以上になると破裂する可能性が高くなるので、手術適応となる。

また血管壁の中膜が裂けて、裂け目に血流が入り込み、大血管が膨隆する状態を;解離性大動脈瘤 といい、生命を脅かす危険な状態である。


閉塞性動脈硬化症

主に下肢の動脈が、動脈硬化によって著しく狭小化するか、あるいは完全に閉塞した状態をいう。

数十メートル歩くとふくらはぎが痛くなり、立ち止まると回復する場合には、この疾患を疑う。


眼障害

高血圧性網膜症や、網膜動脈・網膜静脈の閉塞症、視神経症など様々な眼障害を合併する。




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ゲノム創薬と治験の現場

と言うことで、今週は「ゲノム創薬」について、断片的に見てきましたが、どうです?

本当に、ゲノム創薬は功を奏しているのだろうか?

最近、治験では、「将来のために」ということで、患者さんの血液を採取して、「ゲノム解析」のためだけに、調査を追加している治験もある。

けれども、それはあくまでも「今後の研究のために」であり、即、治験のデータ解析に使います、というものではない。

ヒトのゲノムが全て解析された2002年の頃、僕たちのような多少なりとも「創薬」に絡んだ仕事をしている人たちは、「まぁ、それはそれで進歩だけれど、全ゲノムが解析されても、それが来年にでも新薬の開発に繋がることはまず、無いだろうね」と思っていた。

でも、一般の人、特に自分や家族が遺伝子関連の難病の方たちは、「すぐにでも、この病気を治してくれる新薬」を期待していた。

でも、残念ながら、僕たちの科学は、まだ、そこまで進んでいない。

それは、2002年でも、2012年でも、大差がない。

ここに興味深い、小文がある。
   ↓
「創薬研究の難しさ」
   ↓
「創薬研究の難しさ」


以下、引用。

****************

軽々しく新薬開発などと言うのは問題だと,杉村隆国立がんセンター名誉総長に話したら「西村君,気にする事は無い.あれは短歌の枕詞の様なもので,誰も本気にしていないよ.」と言われたのを思い出す.

****************

そうなのだ。

これが、本当のことを知っている科学者の本音だ。

さらに引用。

****************

これまでの何十年にも亘る生化学,分子生物学の研究が基礎となって,画期的な新薬が沢山生まれた事は事実であるが,だからと言って,そのペースでこれからも新薬が生まれるであろうか?

ゲノム創薬とか,分子標的治療,トラスレーショナルリサーチ,オーダーメイド治療などと,キャッチフレーズは流行っていても,実際にそのような研究が画期的な新薬に結びついた例は少ない.

がんの領域で言えば,ヒト慢性骨髄性白血病に対するグリベック位である.

創薬研究は総合科学である.

すなわち,ターゲット分子の同定,それを標的とするin vitro 評価系の確立と化合物のスクリーニング,最適化合物の有機合成,薬理動態の研究,実験動物を用いた副作用の研究,遺伝子改変マウスなどを用いた薬効の確認など,一連の研究を緊密な連携の下に遂行することにより,初めて臨床開発への候補品が選ばれる事になる.

・・・・・・・・・

がんの分野の新薬と言えば,大鵬薬品の白坂哲彦博士を中心として生まれたS-1が挙げられる.

何十年にも及ぶ地道な,且つ執念とも言うべき研究の成果である.

これは所謂分子標的薬では無い.

やたらと流行を追うので無く,各人が自分の研究を地道に進めて行けば,その内のどれかが,何時か新薬の開発に結びつくのでは無いだろうか.

****************

そのとおり!なのだ。

どんなに科学が発展しても、基本は、「地道な研究」なのだ。

そんな地道な研究の末に、臨床に上がってきた新薬の卵のデータを治験で集める、それは、まるで「非科学的」な「モニタリング」に頼っている。

GCPをまともに知らないモニター。(そんな人が全てとは言わないが)

日常診療の片手間に治験をやっている臨床医。(そんな人が全てとは言わないが)

システマチックになっていない治験の手続き。

ヒエラルキーと力関係が未だに残る「医師」と「モニター(製薬会社)」。

それでいて、新薬の開発費の80%を占める「金のかかる治験」。

接待を要求する医師。(そんな人が全てとは言わないが)

鉛筆で予めCRFにデータやコメントを記載し、それを医師になぞらせるモニター(製薬会社)。(そんな人が全てとは言わないが)


僕は時々、自分の無力感を感じる(そりゃそうだ。それが事実なのだから。)

それは、何故かと言えば、ゲノム創薬だろうと、抗体医薬品だろうと、最後は「力任せ」の治験に頼らざるを得なく、モニター、CRC、治験責任医師、治験事務局、という人たちの絶えざる努力でしか、治験が成り立たないからだ。

EDCだろうが、リモートSDVだろうが、e-CTDだろうが、最終的にはそれに関係する「人の質」に頼っている。

そういう人たちの質を上げる方法は「研修」でカバーできるのだろうか、と考えてしまう。

でも、「きっと、無理だ」と思っていると、仕事にならない。



「ゲノム創薬」が、まだまだ、発展途上だと知っていても、「患者の苦しみ」のためには、僕たちは前進するしかないのだ。(どちらに進めば、それが「前進」なのかさえ定かではないが。)

科学はどんなに発展しても「万能」ではない。

そして、そんな科学を発展させるのが、人間の力と知恵だ。


いつまでも泥臭い治験でいいのだろうか?


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2012年08月30日

ファーマコゲノミクスとは?

今週は「ゲノム創薬」について見ています。

下記の「ゲノム創薬の研究現状および展望」も「ファーマコゲノミクス Pharmacogenomics」について、参考になります。(昨日とは違う小文)
   ↓
「ゲノム創薬の研究現状および展望」


以下、引用です。

***************

遺伝子情報を基に患者各人に個別至適化された薬物治療を実現するため、従来から臨床薬物動態に関連する遺伝学として発展してきた薬理遺伝学は、ヒトゲノムの解読を受け更に薬理ゲノミクス(ファーマコゲノミクス)という新たなコンセプトの登場とともに、医療への応用に加速されつつある。

また、この個別至適化した薬物治療を実用的にするための『ゲノム創薬』により、遺伝子情報に合わせた薬の品揃えの戦略も拍車がかかり、新たな分子標的医薬、抗体医薬の広がりは更に個の疾患治療を加速化しつつある。

このゲノム情報、技術を活用する患者各人に個別至適化された“テーラーメイド医療”を現実化するため、薬理ゲノミクス(ファーマコゲノミクス Pharmacogenomics)という新しい方法論が登場した。

わが国でもゲノム創薬の必要性は、産官学界いずれにも強く認識されているものの、現在、必ずしも要請に十分対応出来ていない。

その主たる要因は、ゲノム生命科学と化学が融合した新たな学際領域の人材不足、またその背景には専門教育の欠如にあると考えられる。

特に、ゲノム創薬プロセスは、創薬ターゲット探索から創薬リード探索を経て臨床段階に至る広範で高度に専門化した領域からなる融合学際領域であるため、現状のオーソドックス創薬のための単一学科のみで纏った専門教育体制ではその修得が困難で、横断的な教育システムが必要とされる。

すなわち、急速に進展しつつある「ゲノム生命科学(特にゲノム情報とゲノムテクノロジーからなる機能ゲノム科学)」、「医薬品化学(特にケミカルゲノミクス)」、そして両者を連関させ革新的な創薬へと昇華する「情報科学(特にバイオインフォマティクス)」の融合領域を基盤とするゲノム創薬科学の包括的教育とその実践的人材の輩出が、今後のゲノム創薬の発展には急務である。

***************


ファーマコゲノミクス(PG x )とは.・・・ファーマコゲノミクス(Pharma-co-geno-m-ics)はPharmacology(薬理学)とGenomics(ゲノム学)の造語で、あえて日本語に訳すと「薬理ゲノム学」となりますが、このまま使うことが多く、PGxと略します。


ついでに・・・・

「ゲノム薬理学を利用した治験について」の当局の通知(薬食審査発第0930007号 平成20年9月30日)
   ↓
「ゲノム薬理学を利用した治験について」


製薬協の「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に際し考慮すべき事項(暫定版)」
   ↓
「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に際し考慮すべき事項(暫定版)」


「医薬品評価におけるファーマコゲノミクスの利用に関する現状と課題に関する報告書」
   ↓
「医薬品評価におけるファーマコゲノミクスの利用に関する現状と課題に関する報告書」


「医薬品開発におけるファーマコゲノミクスの現状と展望」
   ↓
「医薬品開発におけるファーマコゲノミクスの現状と展望」


抗体医薬品については・・・・

「バイオ医薬品の現状と将来展望」
   ↓
「バイオ医薬品の現状と将来展望」


その他、薬学とゲノム創薬の今後について
   ↓
「薬学の展望とロードマップ」


東京理科大の学生さんの考察(なかなか面白い!)
   ↓
「日本のバイオ産業の可能性と問題点」


創薬技術と医薬品の進歩
   ↓
「創薬技術と医薬品の進歩」



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2012年08月29日

ゲノム創薬の現状はどうなのか?

では、ゲノム創薬の現状はどうなのか?

ここに興味深い小文がある。
   ↓
「ゲノム創薬の現状と今後の展望」

以下、引用です。

***************

医薬品開発のあらゆるステージにおいてトランスクリプトームやゲノミクス手法を積極的に取り入れる,いわゆるゲノム創薬が国内外の製薬企業において潮流となっている.

当初トランスクリプトームは,“High- throughput”な創薬標的探索の方法論と考えられていたが,現実にはこれに研究シーズをもとめたもので臨床開発まで至った事例は今だ少ない.

トランスクリプトームによる疾患や生命現象の解明は,個々の遺伝子に還元して解析する手法に加えて,数十から数百個の遺伝子を巨視的な視点で解析する新たな手法を生み出した.

またヒトゲノムプロジェクトにより明らかになった染色体上に点在する564 万件以上のSNP(一塩基多型)情報は,生活習慣病などの多因子疾患の病因や薬物の有効性に関わる個体差をヒトで解析することを可能にしつつある.これらの情報の活用により,今後の医薬品開発の成功確率が高まると期待している.

***************



トランスクリプトームとは・・・・・・

トランスクリプトーム(transcriptome)とは、特定の状況下において細胞中に存在する全てのmRNA(ないしは一次転写産物、 transcripts)の総体を指す呼称である。ゲノムは原則として同一個体内のすべての細胞で同一だが、トランスクリプトームでは状況が異なり、同一の個体にあっても組織ごとに、あるいは細胞外からの影響に呼応して固有の構成をとる。



さらに、上記の小文にはゲノム解析から、すぐには創薬には結びつかないことがかるく、述べられている。

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現在もっとも大きな課題となっているのは,罹患率の高い生活習慣病(高脂血症,高血圧,糖尿病)に関する疾患関連遺伝子の同定である.

これらの疾患は,遺伝的素因も多因子であり,これまでのような,1 つだけの疾患関連遺伝子では,病態発現への相対的危険度は低く,複数の関連遺伝子を同時に解析することが求められている.

膨大なSNP データに基づくゲノムサイズのSNP 解析が,臨床研究における,多因子疾患解明を加速すると考えられる.

****************

筆者は、まだ、希望的観測を述べているが、高脂血症,高血圧,糖尿病などは、単純にゲノム解析から、新薬に結びつかない。

ここが、行き詰まりの原因になっている。




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2012年08月28日

ポストゲノムとは?

最近、言われ始めた言葉として「ポストゲノム」がある。

ポストゲノムとは?

ヒトゲノム計画で解析された遺伝子情報を活用する研究は、ポストゲノムと呼ばれている。

その中心となっているのがヒトゲノムの情報を基に病気や病態に効果を示す画期的な医薬品をつくり出すゲノム創薬だ。

現在、ポストゲノムには、@cDNA解析、Aバイオインフォマティクス、Bプロテオーム解析という3つの方向性が示されている。

●cDNA解析は、細胞分裂の際に遺伝子が作り出すコピー(cDNA)を使用して、DNAそのものの遺伝子機能を解析しようというゲノムの基礎的研究。

●バイオインフォマティクス(生命情報科学)は、DNA配列、アミノ酸配列、タンパク質立体構造などの情報をデジ照るデータ化して、コンピュータ上で医薬品の開発を行うための研究。

●プロテオーム解析は、病気のヒトの細胞と、その人が健康なときの細胞の中のタンパク質(プロテオーム)の解析比較を行うことで、病気の発症に関係したタンパク質を発見しようという研究。



ゲノム創薬を実現するためにこれら3つの研究は重要な役割を果たしているが、その成果の応用分野として、@SNP(スニップ)とADNAチップと呼ばれる分野の研究がある。

DNAの鎖が4つの塩基で構成されているが、この配列の一部に個人差があることがわかっており、この変異部分をSNP(スニップ)という。

個人の特性や体質の違いはこのSNPによって決定され、個人や民族特有の病気の発症にもSNPが関与していると考えられており、ゲノム創薬の基盤を支える重要な研究となっている。

二番目のDNAチップとは、シリコンチップや硝子盤の上に整列、固定された一本鎖DNAのこと。

簡単にいえば、SNP解析に伴う遺伝子の鑑定や病気に関連する遺伝子などが研究しやすいように処理したDNAの標本だ。

このように、ゲノム創薬は、今後も新たな研究分野を創出しながら、進展していくと考えられるのだが・・・・・・。

本当に、そうだろうか?

人間のゲノムが解析された頃、これで画期的な新薬ができる、個人に合わせたテーラーメイドの医療を提供できる、と大騒ぎしたが、で、今の現状は?

確かに、ハーセプチンやグリベックの例はある。

乳癌に使われるハーセプチンという薬剤は、乳癌に過剰発現する遺伝子がつくるHER2という受容体(タンパク質)に対するモノクローナル抗体。

慢性骨髄性白血病に使われるグリベックという薬剤は、9番染色体と22番染色体が相互転座してできる遺伝子がつくるBcr-Ablチロシンキナーゼというタンパク質に対する阻害薬であり、腫瘍の原因遺伝子を標的として開発されたなかでは、初めて臨床で有効性を示した化学物質として歴史に残る薬剤だ。


創薬には、臨床試験まで含めると、15年かかるといわれており、多大なコストとリスクを伴う。

第1相から第3相までの臨床試験のコストは100億円に近く、しかも成功の確率は2%程度といわれている。

この確率を飛躍的に高めて知的な創薬を行うことが重要だ。

そのため、大学・研究所、製薬企業、さらにはベンチャーを含めたゲノム創薬のための協力が必要

なかでも、基礎研究で得られた発見を診断や治療に結びつけるトランスレーショナル・リサーチが重要だ。

詳細は下記、参照
  ↓
「ゲノム創薬時代における日本の創薬型製薬企業の研究開発マネジメントのあり方について」

「よくわかるバイオ・ゲノム」



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