2012年06月23日

医療イノベーション5か年戦略(1)

今週は「医療イノベーション5か年戦略」を見ていきます。
   ↓
「医療イノベーション5か年戦略」(2012年版)

医療イノベーション会議(平成24年6月6日)のものです。





以前、「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」というのがありました。

■■■ 「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」を検索してみよう。■■■
     ↓
平成19年4月26日(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)
     ↓
「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(2007年版)



「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(2007年版)の目標は以下のとおりでした。



**** 目標 ****

●革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略は、日本の優れた研究開発力をもとに、革新的医薬品・医療機器の国際開発・提供体制へ日本が参加し、日本で開発される革新的医薬品・医療機器の、世界市場におけるシェアが拡大されることを通じて、医薬品・医療機器産業を日本の成長牽引役へ導くとともに、世界最高水準の医薬品・医療機器を国民に迅速に提供することを目標として定めた。

************



うむ。

いつの時代も(少なくとも私がこの世界に踏み込んだ30年前からはずっと)、日本は優れた研究開発力を持っているけれど、それが臨床の現場に応用されない、という日本の欠点があげられていました。

このような意見は30年間、ず〜〜〜っと言われ続けていました。


こういう問題が提示されたときの定石は「まず前提を疑え」というものです。

たとえば、上記の「目標」を見て考えなければいけないのは「本当に日本は優れた研究開発力を持っているのか?それは希望的観測ではないと言えるのか?」という具合です。

まぁ、そうですね・・・・日本には基礎力が無いことは無いですね。

でも、論文数などは世界有数とは言えないのですね。


■■■ 「日本の医学の論文数」を検索してみよう。■■■
     ↓
「基礎研究は4位を維持も、臨床研究は順位の低下続く。主要雑誌の臨床研究論文数、日本は25位」

基礎研究はまぁまぁとして、臨床研究は惨憺たるものです。



それはさておき、この「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」(2007年版)の成果はどうだったのでしょうか?

最近の流行りの言葉を見ても、「ドラッグラグ」はあるわ、「公知申請」はあるわ、「死の谷」はあるわ・・・・・。

ということで、あまり成果は出なかったんじゃないの?と私たちも単純に思ってしまいます。

「医療イノベーション5か年戦略」(2012年版)でも以下のように反省しています。


*****「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」の成果 *****

この5年間を通じて、研究から上市に至る各ステージにおいて・・・・・・

@研究資金の集中投入

Aベンチャー企業の育成等

B臨床研究・治験環境整備

Cアジアとの連携

D審査の迅速化・質の向上

Eイノベーションの適切な評価

F官民の推進体制の整備等の取組により、ドラッグラグ・デバイスラグの短縮につながる体制等が整備される

・・・・・・等一定の成果が見られた。

一方、医薬品・医療機器を取り巻く環境は、この5年間で大きく変化した。

再生医療や個別化医療といった先進分野の発展やアジアをはじめとする新興国市場の拡大等、これに対応した環境整備も必要となっている。

こうした変化は、医薬品・医療機器のニーズの拡大と相まって、今後も飛躍的に進展していくことが予想され、我が国の医薬品・医療機器産業を真に日本の成長牽引役へと導き、世界最高水準の医薬品・医療機器を国民に迅速に提供するためには、引き続き、ドラッグラグ・デバイスラグの短縮に取り組むとともに、今後は、革新的医薬品・医療機器を世界に先駆けて開発し、更に海外へ積極的に打って出ていく施策が必要である。


********************



・・・・・・というように反省はしているのですが、じゃ、どこに問題点があったの? という分析はされていません。

そういう分析もなく、次のように「医療イノベーション5か年戦略」(2012年版)では記載されているわけですね。



********************

日本の医薬品・医療機器を取り巻く環境は変換期を迎えている。

日の丸印の革新的な医薬品・医療機器の創出が伸び悩み、むしろ輸入超過の傾向が大きくなってきている。

この背景には、新興国市場の急速な拡大等による激化する国際競争の中で、いち早く市場獲得を目指すため、グローバル製薬企業等が、日本の研究開発拠点を閉鎖し、より創薬・医療機器研究開発・市場化の環境の整った他国へ拠点を移している動きや市場を支配する医薬品・医療機器の業界構造の変化等がある。

********************


「日の丸印」という言葉が微笑ましいですね^^;


日本の製薬業界で革新的な医薬品がこの5年間、出てこなかった理由として「医薬品・医療機器の業界構造の変化」を理由のひとつにあげられていますが、どういう変化を言っているのでしょう?

どうしてその変化に対応できていないの?という視点・見解がないですね。

「医薬品業界の横並び主義の体質」や「旧態依然の製薬業界・医療業界」、「タテ割行政の弊害」とかね、いろいろとあると思うのですが・・・・・・。



日本で医療イノベーションが生まれない、そのキモは「卓越した人材の不在」です。

あるいは、「優秀な人材の流出」です。
  ↓
「創薬/創医療機器:なぜ私は海外に活路を求めるのか、なぜ私は日本に活路を見いだすのか」
  ↓
「創薬/創医療機器:なぜ私は海外に活路を求めるのか、なぜ私は日本に活路を見いだすのか」


上記のセミナーで、こんなことが言われていました。

「日本発医療イノベーションの壁」 中村 祐輔(東京大学医科学研究所教授)
  ↓
海外では産・官・学を橋渡しする役割を持つ機関があるが、日本にはない。

我が国における産・官・学連携不足の原因・・・医療行政責任者による明確な指針がない


・・・・・・うむうむ、なるほどね。

「我が国における産・官・学連携不足の原因・・・医療行政責任者による明確な指針がない」というのは確かに想像に難くないですね。

そんな分析(対策)も無いままに以下のことができるのでしょうか?


********************

・これまでの「革新的医薬品・医療機器創出のための5か年戦略」を継承・発展させ、産学官一体となって、医薬品・医療機器産業を育成し、世界一の革新的医薬品・医療機器の創出国となる。

・再生医療や個別化医療のような世界最先端の医療の分野で日本が世界をリードする実用化モデルを作る。

さらに、医療サービスのイノベーションに向けての検討を併せて進める。

今後5年間はこれらを車の両輪として進め、医療イノベーション大としての地位を築くべくこの戦略を策定する。

********************


本当に「産学官一体」となっているの? なれるの? 壁を取り払う意識はあるの?

「アンメットメディカルニーズ」とか「イノベーション」とか、かっこいい言葉を使っていますが、それだけです。

さらに報告書の中には「世界最先端の科学技術におけるインベンション」とか「医療リテラシー」とか、「ユビキタス化」という「目くらましの言葉」が踊っていますが、そういう言葉を使ったからと言って、内容が素晴らしくなるわけではありませんよね。



ちなみに「新薬へのアクセス」という言葉も、最近、よく聞かれるようになりました。(それほどでもない?)
  ↓
新薬アクセスと市場ダイナミズム−市場要因による国内新薬開発への影響−
  ↓
「新薬アクセスと市場ダイナミズム−市場要因による国内新薬開発への影響−」


いろんな言葉で表されていますが、要は、日本では革新的な新薬は出てこないし、海外で標準的に使われている医薬品が、日本では製造販売承認も得られていなくて、日本の患者さんは不幸だ、ということです。

ぶっちゃけ、日本は医療後進国です。

悲しいことではありますが・・・・・・。


■■■ 医薬品ができるまで(治験に関する話題) ■■■
   ↓
医薬品ができるまで(治験に関する話題)


■■■ モニターへの道(一人前のモニターになる方法、モニターの教育方法) ■■■
    ↓
「臨床開発モニター、治験モニターへの道」(優秀なモニターになる方法、モニターの教育方法)


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2012年06月22日

サンプリングSDVへの挑戦

昨日までとは、違う資料を参照してみましょう。

サンプリングSDVへの挑戦
  ↓
「サンプリングSDVへの挑戦」


★★★ 根本的な間違いは? ★★★

●「肥大化して,こんがらかったお仕事」に手をつけずに,品質確認だけ手を抜こうとしている

■ ムダなデータ収集をしていないか?

■ムダの温床になりやすいのは,病歴,併用治療

■ スポンサー会社や試験に特有な煩雑さはないか?

■ 誤りが起きにくいプロセスになっているか?

■ 試験の進行中にプロセスを見直す努力はしているか?


●「データが全部集まった後で,最終的に品質が高ければよい(怒られない?)」という稚拙な品質管理の考え方

■ 日本古来のBook型CRFを最後にまとめて回収していた頃の習慣?




★★★ 品質確認:従来型vs プロセス管理 ★★★

●従来型

データ発生 ⇒ その人なりにがんばる! ⇒ 最後にエラー確認【出口管理】


●プロセス管理

データ発生 ⇒ プロセスの良さ・悪さを刻々と計測していく ⇒ 検査すら無駄なほど高品質!

         ↓

■問題があったら、プロセスに悪影響を与える見逃せない原因(Assignable Cause)があるはず
         ↓
■その原因を潰していけば、プロセスはますます安定し品質を作りこむ力(Process Capability)は向上する!





★★★ 品質の作り込み ★★★

●施設に「品質の作り込み」を要求する前に,やるべきことがある

 ■簡潔であることを大事にすること(余計なデータを収集しない)

 ■プロトコールやCRF、CRFの記入手引きなどのコミュニケーションツールの充実(曖昧さの排除)

 ■各施設での原資料からCRFまでのデータの流れを把握して、エラーが起きにくい「仕組み作り」に協力すること(Worksheet、カルテに貼るシールなど)

 ■トレーニングの充実

 ■電子化、自動化の推進(人が介入するステップを減らす)

 

★★★ Very Frequently Asked Question ★★★


■データ全体のどのくらいの割合をチェックすればいいんですか?

■合格不合格の判定基準は,どのように設定すればいいんです

  ↓

一概には答えられません。

真面目に統計的抜取検査をやるなら,JISハンドブック57 「品質管理」に掲載されているJIS Z 9015 (British Standards BS 6001,ISO 2859などと等価)。

これには,サンプルサイズと合否判定の基準の数表が添付されています。

一律にロットサイズNに対して,√N+1 ,10%という基準を使う場合もあるようです。しかし,「統計的な裏付けの無い抜取検査」です。





★★★ 治験データの品質:目指すべき道 ★★★

●エラーを犯した人を吊るし上げても根本的な解決にはならない

  ■その人だって,不真面目にやってるのではないし,意図的にやってるのでもない。そうさせた原因は何かこそ突き詰めるべき


●問題はその人にあるのではなく,プロセス,というよりも「プロセスの設計」にある

  ■ここで言うプロセスは,患者さんで発生した「データ(情報)」を,収集するための過程すべてを指す

    ★スポンサーが要求する「プロセス」もある
    ★医療機関で作っている「プロセス」もある

●プロセスの設計にこそ,スポンサー(CRO),医療機関が協力して参画すべき

●一方的に押し付けても,うまく動かない!




★★★ スポンサーの視点vs. PMDAの視点 ★★★

●スポンサーの視点

 ■治験を実施している時に,逐次,品質をモニターしプロセス改善に生かす。

 ■でも,顧客(PMDA)がHappyな品質レベルを満たしていることが必要



●PMDAの視点(特に,信頼性保証?)

 ■治験が終わった後で,その治験の結果や規制当局としての意思決定を国民に示したときに,それが,ちゃんとしたデータに基づいていると言えるか(被験者の権利が守られていることは大前提として)





★★★ シンポ当日あった重要なQ&A ★★★


●【Q】サンプリングでチェックしていないエラーを監査やPMDAから指摘された時の対応は?

●【A】そもそも監査やPMDAが個々のエラーを指摘するという(ことがあるとしたら),それこそが「出口管理」です。

品質保証のプロセスが上手く機能していたかをチェックするのが,本来のQualityAssuaranceのあり方だと思います。

致命的なエラーがないかのチェックはしていいと思いますが,致命的なエラーがあっては困るデータ・クラスは100%SDVしていればその心配はミニマムなのではないでしょうか?


●【Q】本当にサンプリングで100%SDVと同等の品質確認ができるのでしょうか?

●【A】そのような危惧がある場合には,サンプリングSDVなんて,やっちゃダメです。


*******************


・・・・・・・と言うことで、今週はずっと「サンプリングSDV」を見てきました。

さて、あなたの会社ではどうしますか?

最悪のシナリオは「よそでもサンプリングSDVをやっているから、そろそろうちでもやろうよ」というもの。

サンプリングSDVは「よそでもやっているから」やるべきものではありません。

品質をプロセスで管理できていると判断したらサンプリングSDVを検討するものです。



でも、本当に「サンプリングSDV」で品質を保証できるのか? という質問は永遠にあることでしょう。

その時には「監査(QA)」を考えてみてください。

あなたの会社では監査が全CRFの全データを確認していますか?

してませんよね。

監査は個々の治験の監査を実施しつつ、システム監査などを実施して、いわゆる「抜き取り」でCRFをチェックしています。

その方法で「品質保証」をしています。

その手法(システム監査&抜き取り(サンプリング)監査)で、総合機構も何も言ってきません。

要は会社が一丸となって品質保証をしている、というシステムを構築すればいいわけです。

あとは、データが発生する治験実施医療機関での品質管理を実施・充実して欲しいですね。

全てのCRの全てのデータを見ないと不安だ、という人は、じゃ、どうなれば不安が解消するの? ということを考えてみましょう。



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医薬品ができるまで(治験に関する話題)

ハードボイルド・ワンダーランド日記
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2012年06月21日

サンプリングSDVの実施方法と考慮すべき内容

3.5.2 サンプリングSDVの実施方法と考慮すべき内容

サンプリングSDVの実施方法を検討する際に、前章で示した品質確保対策と同時にサンプリング単位を検討し骨格を設計する必要がある。

その骨格が決定されれば、それに合わせた品質確保対策が検討しやすくなる。

サンプリング単位は、試験の性質や試験の実施体制により、適切なものを選択する必要がある。




以下に、3つのサンプリング単位〔1)実施医療機関単位、2)症例単位、3)Visit/データ単位〕について実施例と考慮すべき内容を提示した。

1)実施医療機関単位でのサンプリング

モニタリングの効率化の面で考えると、実施医療機関あたりの症例数が多い場合に特に効果が高くなると想定される。

ただし、「実施医療機関」をサンプリング単位とした場合、一度もSDVが実施されない実施医療機関が存在するということとなり、全ての実施医療機関をまとめて評価できる品質基準が必要になると考える。

この実施医療機関の中であれば、どの実施医療機関を選んでも品質は同じであるという状況下におく必要がある。

例えば、全体の実施医療機関数が少なく、これまでの治験実績や先行している別試験において一貫して品質が高いと評価できる限定された実施医療機関でのみ行われる試験での導入が考えられる。



★★★ 実施医療機関単位でのサンプリング例 ★★★

@ 試験開始時に、予めSDV実施医療機関をサンプリングしておく(それ以外の施設はSDVを実施しない)。

A 1例でもエントリーされた実施医療機関の中から一定の割合で実施医療機関をサンプンリグする。


●考慮すべき内容

A) 一度もSDVが実施されない実施医療機関が存在する(@、A)。

B) 実施医療機関毎のエントリー症例数が異なる(また、開始時に予測することが困難である)ことから、SDV実施症例率のコントロールが困難である(@、A)。

C) A)を避けるために、100%SDV実施項目の必要性を検討する(@、A)。

D) 試験開始前に、全ての実施医療機関をまとめて評価できる品質基準を設定する(@、A)。

E) 試験開始前に設定したサンプリング実施医療機関数を、途中で増減する条件を設定する(@、A)。





2)症例単位でのサンプリング

「症例」をサンプリング単位として設定する場合、一度もSDVが実施されない症例が必ず存在する。

また、どのようなブロック単位で実施するかについては、全体の症例とするか実施医療機関毎の症例とするかのどちらかである。

全体の症例をブロック単位とする場合には、実施医療機関毎のエントリー状況によって一度もSDVが実施されない実施医療機関が存在してしまう可能性がある。

また、実施医療機関単位の項でも述べたように、この実施医療機関の中であれば、どの実施医療機関のどの症例を選んでも一定の品質は保持されているという状況下である必要がある。

一方、実施医療機関毎に一定の割合でサンプリングする場合は、一度もSDVが実施されない実施医療機関は存在しない。

従って、実施医療機関数が多い場合には後者のブロック単位を選択し、SDVが実施された症例において一定の品質基準を満たすことを示すことができれば多くの試験で実行可能であると考える。


★★★ 症例単位でのサンプリング例 ★★★ 

@ 試験開始時に、予めSDV実施症例をサンプリングしておく(例えば、エントリー順に○例おき、症例番号をランダム等)。

A 実施医療機関毎に、一定の割合でサンプリングする。

品質基準を満たさない実施医療機関はサンプリング対象とはしない。


●考慮すべき内容

A) 一度もSDVが実施されない実施医療機関が発生する可能性がある(@)。

B) A)を避けるために、100%SDV実施項目の必要性を検討する(@)。

C) 試験開始前に、全ての実施医療機関をまとめて評価できる品質基準を設定する(@)。

D) 実施医療機関毎に評価できる基準を設定する(A)。

E) サンプリング症例数を試験途中で増減する条件を設定する(@、A)。




3)Visit/データ単位でのサンプリング

「Visit/データ」をサンプリング単位として設定する場合、上記1)「実施医療機関単位」や2)「症例単位」で100%SDV実施項目を設定しない場合に想定される「一度もSDVされない実施医療機関や症例が存在する」という問題点が生じないことがメリットとなると考えられる。

また、全体の症例をブロック単位とする方法を取るよりも、上記2)「症例単位」と同様の理由により実施医療機関毎に一定の割合でサンプリングするのが妥当であると考える。

サンプリングするVisit/データを決める場合、重要なVisit/データを予め特定する方法とランダムにあらゆるVisit/データを対象とする方法の2種類が考えられる。



★★★ Visit/データ単位でのサンプリング例 ★★★ 

@ 事前に当該試験に対する重要なVisit/データを特定し、実施医療機関毎に特定のVisit/データに対して100%SDVを実施する。

A 実施医療機関毎にエントリーされた症例から随時ランダムにVisit/データをサンプリングし、そのVisit/データに対して100%SDVを実施する。


●考慮すべき内容

A) 事前に特定したVisit/データ以外はSDVが実施されないため、他のデータに関する問題が見えにくい(@)。

B) A)を避けるために、事前特定以外のVisit/データについてのSDV方法(@とAの組み合わせ)を検討する。

C) 実施医療機関毎に評価する基準を設定する(@、A)。

D) サンプリング数を試験途中で増減する条件を設定する(@、A)。



上記の3つのパターンにてサンプリング単位による実施方法を提示したが、更に効率化を求める場合は、1)〜3)の組み合わせによる方法も十分検討範囲内であると考えるが、SDVされるデータがより少なくなると想定されるため、導入する試験の種類や品質確保対策を十分に検討する必要がある。





3.7. サンプリングSDVまとめ

「SDVの効率化」を考える上で、「サンプリングSDV」は効率化のための有効な一手段になり得ると考えられるが、3.3で示した「サンプリングSDVに関するアンケート」の結果から、国内では現在サンプリングSDVを実施している治験依頼者はまだ3社(4%)であるため、サンプリングSDVがどの程度治験の効率化に影響を与えるのかを具体的に提示できる段階ではない。

しかしながら、ここ数年来実施医療機関及び治験依頼者の双方が「オーバーワーク」に疑問を抱き、モニタリング業務の中でも特にSDVプロセスを効率化できないものかと各方面で検討してきている。


2006年アンケート結果3)において、SDV内容で簡略化すべき事項として「全症例(全データ)を確認」を挙げる回答が全体の12%と「全ての既往歴を確認;36%」、「全ての併用薬を確認;19%」に次いで多かった。

そのことからも、症例報告書の全項目のSDVが「オーバーワーク」として捉えられていることが推察でき、欧米で実施されているサンプリングSDVが治験の効率化の一手段として有効であると考えられ始めているものと思われる。

当タスクフォースが実施したアンケート結果では、大多数の治験依頼者(88%)がサンプリングSDVに踏み切れない理由として挙げているのが、「品質管理においての不安」である。

これに対しては、3.5.1で提言したような品質確保対策を例に事前に十分検討しておくことで漠然とした「品質管理上の不安」は緩和されると考える。

この品質管理に対する考え方としては、従来の「結果重視」のモニタリングから、「リアルタイムなプロセス改善」を重視したモニタリングの実行に移行することがベースとなる。

また、治験の効率化という観点では、サンプリングSDVは単に仕事の簡略化によりリソースを削減する、という考え方でなく、「リソースの配分を見直し、リアルタイムのプロセス改善を図っていくことの結果として、リソースの削減が可能となる」という考え方でもある。


従って、サンプリングSDVは品質管理の考え方から品質確保の対策までを十分に検討した上で導入することが前提にはなるが、導入したからといってすぐに効率化が図れるわけではなく、業界全体として各治験依頼者がこれまでの「結果重視」のモニタリングから、「プロセス重視」のモニタリングに軸足を移し、実施医療機関とともにSDVの効率化を目指していくという取り組みが重要であると考える。

「サンプリングSDV」がその有効な手段になることを期待する。




4. 結語

1997年に新GCPが施行され、治験依頼者、実施医療機関、治験責任医師等、治験におけるそれぞれの責務が明文化された。

治験依頼者に対しては、モニタリングの実施・モニタリングの責務(省令GCP第21条、22条)、監査(省令GCP第23条)が記載されている。

その中でもモニタリングは、@被験者の人権、安全性及び福祉が保護されていること、A治験が最新の治験実施計画書及び本基準を遵守して実施されていること、B治験責任医師または治験分担医師から報告された治験データ等が正確かつ完全で原資料等の治験関連記録に照らして検証できることを確認することになっており、治験依頼者に課せられた非常に重要な業務となっている。

その中で、SDVは治験データの信頼性を確保する方策として非常に重要な役割を果たしているが、そのために、モニタリング業務の大部分をSDVに割かれてしまっているという現状があることも事実である。



一方、実施医療機関では、CRCの導入が格段に進み、2007年の製薬協の調査では、実施医療機関の中でCRC不在はわずか1%であり(2003年の調査時:40%)、CRCが在籍している実施医療機関では、実施症例数、エントリーに要する日数とともに、治験実施計画書からの逸脱の発生率も大きく改善されていることからも、実施医療機関における治験の品質は向上して来ていることも事実である。

国内で通常行われているSDVにおいては、症例報告書に記載された全てのデータを確認することで信頼性を確保していた。

また、第2章で問題点として取り上げた、「解析以外の利用」のためのデータ収集は、他に収集されたデータの“正確さ”を確認する目的で“念のため”に収集しているという部分も多分に含まれている。

近年の実施医療機関における治験の品質の向上に伴い、それらのSDVの方法を見直す時期に来ているものと考える。



治験依頼者としては、以下の点から効率化を進めていくことができると考える。

1) 必要とされる可能性の少ない、いわゆる“念のため”収集するデータについては、試験計画段階で十分な精査を行い削減する。

2) 治験依頼者と実施医療機関での「原資料の整備」に関する“認識のずれ”をなくすために、十分なコミュニケーションを取る。

3) その上で、実施医療機関である一定以上の品質が確保できていると思われる場合(この場合、治験依頼者の目からみた品質)、治験の信頼性を確認する上で、症例報告書に記載された全てのデータを確認することよりもリアルタイムのプロセス確認・改善がより効果的であり、サンプリングSDVの導入は可能と考える。

なお、サンプリングSDVを導入するに際しては、必ずしも全実施医療機関で開始する必要はない。

治験実施経験が豊富で治験に対する意識が高い実施医療機関、かつ治験依頼者が定めた「品質基準」を満たす実施医療機関において導入し、治験経験の少ない実施医療機関に対して重点的にリソースを配分する。

治験経験の少ない実施医療機関は、モニターとの密なコミュニケーションが取れることにより治験依頼者の目線というものを理解し、次の試験では、サンプリングSDV導入が可能となる。

このようなプロセスにて、国内の多くの実施医療機関でサンプリングSDVを可能とすることができれば、全体としての品質確保と効率化が共に達成できるものと信じている。



なお、次の資料も、とても参考になるので、是非、読んでみてください。

直接閲覧時のモニターの視点・モニターは何を確認しているのか?
  ↓
「直接閲覧時のモニターの視点・モニターは何を確認しているのか?」


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2012年06月20日

サンプリングSDVに関する提言

今日は「SDVの効率化検討」を学んでいます。


3. サンプリングSDVに関する提言

3.1. サンプリングSDVとは

従来実施しているSDVは、症例報告書中の全ての記載について原資料と確認した結果からデータの信頼性を確保する方法であるのに対し、『サンプリングSDV』は、“予め定められた方法に従って抽出(サンプリング)したデータをSDV対象とし、その結果からデータ全体の信頼性(正確性、完全性)を確認する方法”である。

これは、製品を予め定めた品質管理基準に従って検品した際、検出した不良率が事前に設定した割合以下であれば製品の品質を担保できるという考え(いわゆる製品の抜取検査)と同様である。

詳細は3.4.1に示すが、サンプリングデータのみをSDV対象とし、全体の信頼性を確認する方法を検討しておく必要がある。



GCPでは、モニタリングに関する手順書を作成し、当該手順書に従ってモニタリングを実施しなければならないこと、また、治験実施計画書が要求するデータが症例報告書に正確に記載され、それらが原資料と一致していることを確認する旨規定されている。

しかしながら、全ての症例報告書データについてSDVが必須であるということまでは言及されていない。

そのことから、標準業務手順書で品質管理方法を規定することにより、サンプリングSDVによる治験の品質を管理することは許容されているものと考えられる。





3.2. サンプリングSDVの現状

日本国内では現在のところ、モニターによるSDVは症例報告書の全てのデータに対して行われることが一般的であるが、欧米では、以前よりデータの抽出による「サンプリングSDV」を行っている試験が実施されている。

これまで、日本国内におけるサンプリングSDVの実態について大規模に調査した事例はないため、今回、臨床評価部会参加会社を対象に、現時点における日本国内での「サンプリングSDV」の導入状況、その利点、問題点を把握するため、アンケート調査を行った。


3.3.2.1. サンプリングSDVの実施状況

サンプリングSDVの実施状況としては、回答68社中「実施している」3社(4%)、「実施することが決定している」4社(6%)であった。

また「実施の検討をしている」は17社(25%)、「実施の予定はない」は44社(65%)であった


「サンプリングSDVを実施、実施を決定、実施を検討」とした24社において、サンプリングSDVに期待する効果として最も多かった回答は「モニター1名あたりの担当実施医療機関数の増加」で18社(75%)、以下「全体的なコスト削減」13社(54%)、「スケジュールの短縮」10社(41%)(複数回答)であった。

また、この24社では、サンプリングSDVの対象試験について、「全ての試験で実施」8社(33%)、「一部の試験を選択して実施」16社(67%)であり、すでにサンプリングSDVを「実施している」と回答した3社はいずれも「一部の試験を選択して実施」であった。


サンプリングSDVの採否を決定する主な要因について、「一部の試験を選択して実施」とした16社の主な回答は、試験の規模として「試験のphase」、「試験全体の症例数」、「1実施医療機関あたりの症例数」、「実施医療機関数」、また対象試験の特徴から「評価項目が明確か」、「有害事象発現頻度が少ないと考えられるか」が挙げられた。




3.3.2.2. サンプリングSDVの導入を妨げる要因

「実施の予定はない」と回答した44社のうち39社(88%)が実施に際しての障害要因として「品質管理においての不安」を挙げている。

この不安の要因として、「実施医療機関の原資料の整備状況の問題」26社(66%)や「実地調査において当局から指摘される不安」32社(82%)といったデータの信頼性に対するものと、「サンプリングSDVに対する当局の方向性が不明確」26社(66%)があった。(複数回答)

品質管理に対する不安への対処法として、サンプリングSDVを「実施している」「実施することが決定している」と回答した会社では「特定項目は100%SDVする」6社(85%)、「治験初期では100%SDVする」5社(71%)、「常にエラー率を確認する」3社(42%)といった方法が採られている(複数回答)。


また、実施医療機関に対しては「症例報告書の記載方法の熟知(説明会の充実等)」6社(85%)、「症例報告書の記載の実施医療機関内の品質管理(ダブルチェック等)」4社(57%)といった対処をし、症例報告書の精度向上を求めている(複数回答)。



3.3.3. アンケート考察

今回のアンケートの結果、国内において現在、「すでにサンプリングSDVを実施している」会社は68社中3社(4%)とわずかであった。

しかし、数年前までサンプリングSDVはほとんど実施されておらず、『SDV』とは、原資料と症例報告書との100%の照合が前提条件と考えられていたが、現在では実施している会社が複数存在していること、また「実施することが決定;4社」、「実施を検討している;17社」といった回答も合わせて24社(35%)となることから、今後は国内の臨床試験において、サンプリングSDVという新たな方法で治験の効率化が進むことが期待される。

しかし、現時点では「実施の予定はない」と回答した会社が44社(66%)と最も多く、その導入における障害要因として39社(88%)が「品質管理においての不安」と回答し、「実施医療機関の原資料の整備状況の問題」「モニターのスキルの問題」「実地調査において当局から指摘される不安」「『サンプリングSDV』に対する当局の方向性が明確でない」といった理由がほぼ同様の割合で挙げられていることから、モニタリングにおける効率化の方策としてサンプリングSDVという新たな手法を国内に広めるためには、実施医療機関、治験依頼者、規制当局が意見交換をし、これらの不安払拭に向けて努力することが必要と考える。




3.5. サンプリングSDVの実施方法と品質確保について

3.3.に示したように「サンプリングSDVに関するアンケート」において、「サンプリングSDVの実施予定はない」と回答した44社(66%)のうち39社(88%)が、その障害となっている理由として「品質管理においての不安」を挙げている。

このことから、治験依頼者はサンプリングSDVを導入するにあたり、これまでのSDVと今後実施しようとするサンプリングSDVの方法を比較し、品質確保の面でどこに不安があるのか、その不安を解消するためにはどのような対策が必要なのか、また許容し得る程度や範囲を検討する必要がある。

ただし、「モニタリングの効率化」を前提にしているため、品質確保対策が過剰なモニタリングを惹起する結果となっては本末転倒であることから、サンプリングの方法自体(サンプリング移行基準の設定やサンプリング率の増減など)をも品質確保策のひとつと捕らえて、サンプリングSDVがモニタリングの効率化、更には試験全体の効率化につながれば理想的である。

治験依頼者の開発戦略の方向性や、生産性向上と品質確保のバランス(考え方)の違いによって、導入に際して検討すべき内容は異なってくるが、治験依頼者が導入前に評価・検討しておいた方がよいと考えられる内容として、現状分析、サンプリングの基本的方法、実施条件、品質確保策、実施手順書、導入前後評価指標、モニタートレーニング内容等が挙げられる。




3.5.1 サンプリングSDVに共通した品質確保対策

実施医療機関単位、症例単位、Visit/データ単位・・・等のようなサンプリング方法を導入したとしても共通する懸念事項は、少なからずSDVされない症例報告書データが存在することである。

従って、そのSDVされないデータについても、品質が確保できていることを示すために何らかの方策を検討しておく必要がある。

同時に全症例に対してSDVを実施する必要がある重要項目についても要否を含めて検討しておく必要がある。


以下に、共通した品質確保策として検討が必要と考えられる内容を3つに分けて提示する。

1)サンプリングSDVが実行可能(品質が確保されている)と判断する際の基準

統計的品質管理についての論議はここでは省略するが、基本的な考え方としては、あるデータの母集団から、予め定められた方式に従ってサンプリングされたデータに対してSDVを行った結果、サンプリングに伴う“ばらつき”を含めて一定以上の品質を満たしている場合、その他のデータにおいても一定以上の品質が確保されていると判断することが可能である。

つまり、サンプリングされた一部のデータのSDVにより、母集団全体の品質を確認することができる。


一方、品質が低いと判断される場合には、サンプリング率を上げる(もしくは全症例チェックへ移行する)などの対応が必要となると考えるが、同時に問題点を特定し品質を高めるための改善策をリアルタイムに講じることで一定以上の品質へ引き上げることも可能である。



ここで、共通のキーワードとして「一定以上の品質(品質基準)」を治験依頼者がどのように考えるか、そしてどのように設定するかがサンプリングSDVの「核」をなすと考えられる。

この時、「品質」というものを主に「治験データの正確性」と考えた場合、実施医療機関における「当該治験実施上の品質基準」として設定するのが最も適していると考えられる。


以下に、「品質基準」を設定する上で目安となる項目を示す。

★ 同意取得を含めた被験者の適格性

★ 実施計画書を遵守した治験実施(治験薬管理を含めた実施手順の遵守)

★ 症例報告書データの正確性、原資料との整合性(エラー内容、エラー率)

★ 被験者の安全性確保(安全性に関わる情報の収集と評価、処置、依頼者への報告等)

★ 原資料の質(必要な記録が全て正確にタイムリーに残されている)



「品質基準」は主に、当該実施医療機関におけるサンプリングSDVの実行可能性を判断するための基準として使用され、サンプリング率の増減やプロセス改善の実行にも活用されるであろう。

特にこの品質基準に基づいて行われるプロセス改善が試験全体の質やモニタリングの効率化を高める上で非常に重要である。

SDVにて品質基準確認を行うことで問題点を把握し、問題点があった場合にはそれを発生させる原因をプロセスの中で特定し、改善策を治験依頼者と実施医療機関と相談しアクションプランについて合意を得た上で、実行してもらう。

次回のSDVにてその問題点が解決され、今後も発生する要素がないことを確認する。

モニターは治験初期段階からこのようなプロセス改善のモニタリングを繰り返すことにより、質の高い実施医療機関を増やし試験全体の質を確保することに注力する。

長期的観点から更に言えば、次に控えている治験もこのような質の高い実施医療機関に集中的に依頼することで、「モニタリングの効率化」及び「適切な品質が保持された症例報告書データ」を同時に得られるものと考えられる。



2)重要項目に対する方策

サンプリングを行うことによって見逃してはならないような、試験自体に大きな影響を及ぼすと考えられる項目を事前に検討し、必要に応じ、その項目については全症例チェックを実施するといった対策も必要であると考えられる。

これは、設定項目数や範囲によってはSDVの効率化の面でマイナスに作用する可能性も秘めているため、この項目自体検討する必要はないという考え方もあるが、試験全体に影響を及ぼすクリティカル・エラーが後々発見された際のインパクトを考えると、これらのエラーに対する何らかの策を講じておくことが必要であると考えられる。

以下に、検討すべき項目を示す。

★ 患者の存在

★ 同意取得

★ AE情報(特にSAE情報)

★ 主要評価項目

★適格性(被験者の倫理/安全性に関わる選択・除外基準)



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2012年06月19日

SDVの効率化検討

今日は「SDVの効率化検討」を学んでいます。


【既往歴/合併症の収集に関する現状調査】


1) 既往歴及び合併症の収集状況

既往歴を収集している会社は41社(82%)、合併症を収集している会社は48社(96%)であり、収集している割合は合併症の方が高かった。

既往歴の収集範囲を制限(限定)している会社は35社(70%)であり、多くの会社が既往歴の収集範囲を制限しているとの結果であった。

収集範囲の制限の内訳は、「期間を限定している」20社(40%)、「疾患を限定している」16社(32%)、「その他」8社(16%)であった。

一方、合併症の収集範囲を制限している会社はわずか6社(12%)であり、既往歴と合併症の間で、収集範囲を制限している割合が大きく異なった。




3) 今後の「既往歴/合併症」のデータ収集について

今後の「既往歴/合併症」のデータ収集のあり方に関する意見の集計結果を表3に示した。

既往歴の収集について、「疾患・時期を限定して記載すべき」と回答した担当者が120名(52%)、「特別な理由がない場合は記載不要」と回答した担当者が75名(32%)であり、「全て記載すべき」と回答したのはわずか10名(4%)であった。

一方、合併症の収集については、既往歴とは異なり「全て記載すべき」との回答が97名(42%)と最も多く、次いで「疾患を限定して記載すべき」80名(35%)、「特別な理由がない場合は記載不要」27名(12%)の順であった。

なお、既往歴、合併症を収集する場合に記載すべき情報としては、傷病名(既往歴92%、合併症95%)、時期(既往歴52%、合併症42%)が多かった。




2.2.3. 考察

今回のアンケート調査の結果、部門間(担当業務間)で症例報告書でのデータ収集に対する認識に関して大きな相違は認められなかった。

症例報告書で収集している「既往歴/合併症」データの利用目的は解析の因子としてよりも「除外基準の確認」や「有害事象の因果関係判定の妥当性確認」にあることが明らかとなり、同様に「併用薬」も「併用禁止薬等の使用の確認」や「有害事象の確認」等、他のデータの検証に用いられることが多いことが判明した。

CIOMS Working Group VIで「症例報告書のデータ項目は、解析されかつ典型的には試験結果の表集約のかたちで提示し得るデータ要素に基づいて選択されるべきである。」と述べられているように、本来、症例報告書で収集するデータの利用目的は解析にあると考える。

この観点からは「除外基準の確認」や「有害事象の因果関係判定の妥当性確認」に利用するためのデータは症例報告書で収集する必要がないデータと言える。



実際、今回のアンケート調査では、「既往歴/合併症」について症例報告書でデータを収集する必要性について意見を収集しているが、結果は「症例報告書へのデータの記載は必須でない」との回答が過半数を超えるものであった。

その理由としては、他の方法で代替可能が多く、代替方法としては「モニタリング記録(適格性確認記録など)」を挙げる回答者が多かった。

解析に必要ではないデータを収集することは、治験依頼者によるSDVのみならず、治験責任(分担)医師及びCRCに対しても不必要な負担をかけることになり、治験全体の効率化を妨げる要因となる。

症例報告書には解析に用いるために必要なデータに限って記載すべきであると考えられる。

また、解析に使用する場合でも、解析の目的が明確でない場合がある。

例えば、「既往歴/合併症」の「有」・「無」を因子とした解析は、今回のアンケート調査で「治験薬の薬効評価に対して有用でない」と回答した担当者は決して少なくなかった(既往歴130名56%、合併症86名37%)。

また、「併用薬」については、医療用医薬品であっても「有効性・安全性評価への影響がない、もしくは少ない」との理由から症例報告書で収集しなくてもよいと回答しているものがある。

このように、「既往歴/合併症」や「併用薬」のデータを収集する際には、一律に全てを収集するのでなく、治験開始時に治験薬の評価に影響を及ぼすと考えられる特定の範囲を限定することが効率化につながると考えられる。





2.3.3. 考察

SDVに関する問題の中で、実施医療機関にも関連する事項として、治験依頼者と実施医療機関とのコミュニケーション不足、特に原資料の適切な整備に起因する問題がある。

原資料の正確かつ完全な作成は、実施医療機関がその責務を負うものであるが、治験の効率的な運用においては、治験依頼者は、治験責任(分担)医師に、原資料の速やかかつ完全な作成を依頼すると共に、CRCを含む実施医療機関関係者とよくコミュニケーションを取り、SDVの前に実施医療機関関係者により不備の修正、内容確認等の対応を徹底してもらう必要がある。

また、看護記録等を含む実施医療機関内での複数の記録にて、データが重複することや、原資料内での不整合が生じることもある。

これらの場合でも、CRC等と確認し、複数存在するデータの何れを採用したのかを明確にすること、原資料内での不整合に関して適切に説明できるようにSDV前に準備を行うことによって、SDVに要する時間は軽減すると考えられる。


これら原資料内の整理が十分であれば、SDVの時間は大幅に短縮され、またその後の治験責任(分担)医師への確認が減ることで、全体的なモニタリング時間の短縮が図られることとなる。

今回は、特に論じなかったが、この点においてモニターやCRCの経験不足によることも考えられる。

本タスクフォースでは、CRC向けの資料を作成したが、これは、新任のモニターの教育資料として活用することも可能と考えられ、是非、多くの企業、CRO、SMO及び実施医療機関で活用されたい。




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